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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
30章 クロスステッチの魔女と納品騒動
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第681話 クロスステッチの魔女、少し雑談する

 私は図案を写し終え、刺繍糸を二本取りにして、針に通す。その耳には、ルイスがラトウィッジに紅茶の淹れ方を指導している声が聞こえていた。うん、こういうのも居心地がいいかもしれない。


「主様ー、石はどうするの?」


「穴を開けないといけないの。ええと、敷き布、敷き布……」


 布というか、今回は毛皮を出してくる。鹿革……はダメだ。もう一度倉庫に走って行って、特に毛足の長いウサギの毛皮を、四角く切ったものを持ってくる。


「よし、これでできるはず」


 雨露の石を片手で固定し、右手に錐を持って振り上げる。キン、と甲高い音がして、真ん中に穴が開いた。そういう魔法が刻んであるという話でもらった錐だったけれど、実際に使うのは初めてだった。うまくいってよかった……。


「おおー、穴が開いた!」


「ビーズみたいにするんですの?」


「そういうこと。ええと、あと六つね」


 私は同じように残りの石にも穴を開け、それらを机の隅に置いておくことにした。必要なときに、ここから使うのだ。


「アワユキ、キャロル、落とさないように気を付けて見ててね」


「はあい」


「わかりました」


 二人が様子を見ていてくれるから、何かの拍子に落ちてしまうこともないだろう。雨露の石は、床に落ちたりして汚れてしまうと、もう使い物にならないのだ。私の家の床が汚いわけではなく――ちゃんと掃除してるもの――雨露の石の取り扱いとして、綺麗な状態を保っていないといけない、というのがある。雫がそうであるように、汚れた場所に置いてしまえば、あっという間に汚れが取れなくなってしまう。


 図案のひとつひとつを丁寧に刺していきつつ、時折、図案が必要というなら石を魔銀の針に通して、そのまま布に縫い付けて行った。刺繍に石を組み込むのは初めてだけれど、これは中々、悪くないかもしれない。綺麗だ。


「あ」


 綺麗、と思ったら危うく魔法が中途半端にかかりかけたので、慌てて魔力の流れを切る。久しぶりにやっちゃいかけたなあ、と思いながら、続きを刺し始めた。魔法はまだ出来上がっていないから、どんな効果になってしまうか誰にもわからない。


「あるじさま、魔法って作りかけでかかっちゃって大変なことになったこと、あるんですか?」


「もちろん。そこから新しい、いい魔法が見つかることもあるけれど……ヘンテコな魔法だった時、みんなを守れないから私は素直に切ってるのよ」


 普通に自分達の身が危ない。発動しちゃった魔法をそのままにして観察できるのは、強い魔女の権利なのだ。

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