第674話 クロスステッチの魔女、刺繍を増やす
家に帰った私は、机に《ドール》たちを並べた。ルイス、アワユキ、キャロル、ラトウィッジの四人。思えば最初は中古のルイスひとりだったのに、随分と増えたものだ。
「色々とやりたいことはあるんだけど、まずはラトウィッジに飛ぶための服を用意するのを一番先にするわ。だからみんな、それまでこの子を助けてあげてね」
「「「はーい」」」
「よろしくお願いします、お兄様、お姉様方」
ぺこりと頭を下げたラトウィッジはキャロルやアワユキより大きいのだけれど、そういうことに決まったらしい。ルイスが一番大きいから、お兄ちゃんぶっているようだ。私はといえば、何に《飛行》の刺繍をつけるか考えていた。何を着ても問題のないもの、という必要性と、性別のない体に似合うものにしたい、という欲とで《ドール》たちがわちゃわちゃとしている様子を眺める。
「……よしっ」
今回は早く案が浮かんだので、さっそく資材置き場に走って布を取ってきた。露蜘蛛の糸を織った白い布は、傾けるとキラキラ光るだけでなく、少し助けているのだ。たまたま一巻き手に入れていたそれを細長く断って、それぞれの端を雪蜘蛛の糸でかがる。他の特殊な作業は必要ない。これはショールなのだから。
私はグレイシアお姉様からもらった《飛行》の図案と、抜き布を出してきて、露蜘蛛糸の布にまち針で溜めた。それから図案を板に写し、白い布に違う白で刺繍を刺し始める。
「キーラさま、近くで見ていいですか?」
「構わないわよ、みんなおいで。でもごめん、ルイスは紅茶を淹れてくれる?」
「当然です」
ルイスに淹れてもらったお茶を飲みつつ、零さないように気を遣いつつ、魔法の刺繍を一針一針、刺していく。流れるような図案が広がって……これ、うまくやれば自分にもいけるな、なんてことも考えたりしていた。今度私自身にも、同じようなものを作ってみよう。ショールなら、仕立ての勉強をやり直したりしなくてもいいはずだし。
「キーラさま、もう夜です。おやすみになったり、ごはんをたべたりはしなくていいんですか?」
「あとちょっとで終わるから、やりきってからね」
途中で何度か紅茶を淹れ直してもらいつつ、私は刺繍を黙々と続けた。服ももちろん用意をしてやる必要はあるけれど、ラトウィッジが飛べるようになっていれば、かなり色んなことがやりやすくなる。だから、これが最初。
「……できた! どう? 腕から背中を通して……こんな感じ!」
ラトウィッジにショールをつけてもらい、くるりと回ってもらう。今この時点で、もう満足だった。