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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
29章 クロスステッチの魔女と蒐集家の魔女
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第669話 クロスステッチの魔女、新しい《ドール》を見守る

 私がラトウィッジと名付けた子は、ゆっくりと起き上がる。まっすぐな長い髪がさらりと揺れて、水色と緑色が入り混じった瞳が嬉しそうに細められた。


「おはよう、ラトウィッジ。私が、あなたの主であるクロスステッチの三等級魔女、キーラよ」


「キーラ、さま。わたしはラトウィッジです」


 受け答えにややぎこちなさがあるのは、生まれたての子だから仕方ない。ルイスやキャロルと違って、この《核》には消された名前もないからだ。


「それからこの子達は、あなたの兄姉になるルイス、アワユキ、キャロルよ。三人とも、新しい子にご挨拶なさい」


「僕はルイス。一番最初のマスターの《ドール》として、長男みたいなことをさせてもらってます。よろしくお願いしますね」


「アワユキはアワユキって言うの! よろしくー!」


「わたくしはキャロルよ。お姉さんになれて嬉しいわ」


 早速立って歩く方法をルイスは教え始めた。ラトウィッジはルイスより二回りほど小さいので、こうして並んでいると本当にきょうだいのように見える。


「あの《核》からどんな心が育つのか、見物ね」


「こういう時は先住の《ドール》がヤキモチを焼いたりする例もやっぱりあるんだけど、うまく行っているようだね」


「私、こういう時に言う言葉を知ってますよ。『煮た栗は案外おいしい』です」


「それあってるのかねえ?」


 ううん、こういう時に言う諺だと思ったのだけれど、言葉って難しい。栗、ちょっと恋しくなってきたな。人間だった頃はお祭りの時とかに、時々分けてもらったんだっけ。

 ラトウィッジが手足を動かせるようになり、少しずつふらつかず立てるようになってきたのを見守っているだけで、多分時間が溶けそうだった。とはいえ、考えてみればここは他人の家なわけで、長々とするわけにはいかないのはわかる。


「ラトウィッジ、おいで」


「はい、キーラさま」


 特に何も言ってないのに、全員そういえば私の呼び方が違うな。ルイス達の頃はまだ三等級だったから、キーラで呼ぶ風にはならなかったのか。ヨタヨタとルイスに片手を取られながら数歩歩き、私に飛び込むようにやってきたラトウィッジを抱き止めた。半日も練習していれば、きっと問題なく歩いたり飛べたりできるだろう。


「本格的な練習は、私の家に帰ってからするとして――そうだ、他の《核》や心のカケラも、見せていただけますか?」


「ああ、見せようって話になっていたからね。構わないよ」


 そう言って、イルミオラ様は立ち上がった。

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