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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
29章 クロスステッチの魔女と蒐集家の魔女
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第661話 クロスステッチの魔女、《核》と心の関係を知る

「ルイスと言ったかしら、きみは自分の《核》の記憶に、興味ってある?」


 何気なく振られた言葉に、ルイスは少し考えたようだった。ルイスは、自分の《核》のことを知らない。私も、刺青の誓約で口には出せない。それがなかったとしても、口にするつもりはなかった。とてもいい子だから、自分が生まれるために人が死んでいると知れば、優しいルイスは気にしてしまうに違いないから。


「うぅん、僕個人としてはあまり……僕が今、僕という《ドール》としてここにいるのに関係はありますけれど、その、」


 迷う様子で言葉を切るのは、どう話すのが一番自分の心に近いか、言葉を探しているのだろう。私よりも元々賢かったり、礼儀作法がちゃんとしていることもまた、彼の元の持ち主の嗜好か、あるいは《核》の元になった人間の名残だ。その理由を掘り下げたいのなら、頷くのだろうか。隣で、お師匠様もルイスに目線をやっていた。私と同じように、気になるのだろう。


「僕は、僕の元がどんな人だったか、僕が何からできたのか、あまり興味はありません。何が前の持ち主に由来するもので、何が僕の元の人から引き継いだものなのか、切り分けようとしたらきっと大変で、ご迷惑をかけてしまいます」


「ああそっか、中古って言ってたね。エリーにも聞いてみたんだけど、『興味ありません』の一言でバッサリ切り捨てられちゃった」


「大体の《ドール》は、自分の元になった人間には興味を持たないよ。そういう意味では、《ドール》は失敗作とも言える」


「お師匠様、この子達は失敗なんてしていないんじゃ、」


 私が思わずそう言ってしまうと、お師匠様は「そういう意味、って言っただろう?」と私の口にメレンゲ菓子を押し込んできた。大人しく食べて、しばらく黙り込む私にお師匠様は続ける。


「元の人間の記憶とか、人格を完全に有した《ドール》は作れない、という話だよ。あくまで魔女が扱うのは心のカケラのごく一部で、全部ではないし……仮に全部を《核》に加工できたとしても、記憶や考えを継いだ本人にはならない、と言われている」


 ルイスがその当人であることは、イルミオラ様の前では当然言わない。けれど、ルイスを見ていると納得できた。それに、この話にイルミオラ様も頷いているということは、それなりに有名な話なのだろう。


「《核》って難しいんですね……」


 もういない人間の残響が、綺麗な石の姿になってここにある。それが《核》だが、決して本人ではない。そう思うと、ルイスの《核》を作った魔女はどうしてそんなことをしたのかが気になってしまった。

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