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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
28章 クロスステッチの魔女と体探しの旅

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第641話 クロスステッチの魔女、魔法糸を眺める

 体を決めて、魔女に値札の通りの金額を支払う。お財布が一気に軽くなった気がするのは、それほど間違いではないだろう。でも、他のものを何も買えないほどではなかった。


「この体にはスカートもズボンも似合うから、色々試してみるといいわ」


「ありがとう、そうさせてもらうわ」


「もう使う?」


「いいえ、箱に入れてください」


 綿を詰めた箱に、私の買った体が収められる。ここで他の部分をすべて買えたとしても、ドールアイが届いていない。すぐには使わないから、壊れ物の体が傷まないために必要なことだった。

魔法糸を体内に通してはいないとはいえ、体の上に頭を載せるくらいはできる。目を入れてからの方が魔法糸を通しておきやすいので、ドールアイが届くまで、糸は使わないつもりだった。


「あ、あっちは魔法糸が並んでるわ」


「見に行ってみましょうよ、マスター」


「糸がきらきらー」


「沢山ありますね」


 魔法糸は基本的に白いが、使った素材によってうっすらと色がついている。灯りに照らされてそれらが光るから、魔法糸の店はすぐにわかった。覗いてみると、太さや用途の様々な魔法糸が並べられていた。補修用と書かれたものや、キャロルのような小さな《ドール》のための細い糸、戦闘用人形のためにがっちりと撚りをかけた糸……さらに素材別にも並んでいるので、すべてが真っ白くなっていた。店員の魔女も色の薄いプラチナブランドの髪に、薄い紫色の瞳、さらに白く染めた服を着ているから、そこの一角だけものすごく色が薄くなっている。


「魔法糸……値札は、一かせごとの値段」


「ありがとうございます。ううん、どうしようかしら」


 この《小市》の中で、魔法糸だけは私でも作ることができる。しかし売り物なだけあって、糸は美しい光沢を持って綺麗に紡がれていた。私が紡いだ魔法糸はもう少し太くなりがちだし、何よりここまで隙間なく撚りを重ねることはできない。


「僕は好きですよ、マスターの紡いでくれた魔法糸」


「でも、太いわよ」


「太くても、僕のマスターですから」


 《ドール》に筋肉はない。代わりは魔法糸だ。緻密に撚られた糸を使えば、力は上がるだろう。……ルイスの糸も替えてもいいかもしれないな、なんてことも思いながらくるりと一巡して、私は一度出ることにした。理由は主にお財布と優先順位。服や髪や《核》を、先に買ってあげなくては。


「……それ、名刺。よかったら、持っていって」


 小さな糸巻きに巻かれた糸。それが、彼女の《名刺》らしかった。

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