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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
28章 クロスステッチの魔女と体探しの旅

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第635話 クロスステッチの魔女、《小市》に参加する

 いくつかの受けられる仕事を受けて、その場で出したり一度宿に戻って軽く手を加えてから出したりして。満を持して、と言えるかは少し怪しいとはいえ、私なりに準備を整えて、私は《小市》に行く日を迎えた。ちなみにパインロルトで取った宿は、夕食に出された肉と野菜の甘煮がかなりおいしい。昼の鐘が鳴ってから始まるとのことなので、午前中は小さな依頼を受けては出し、資金を増やしていた。ルイス達は一応、夜市と同じようにカバンにいてもらう。


「《小市》に来ました」


「それなら、上の階になります。必ず、この扉をくぐってください」


 昼の鐘を聞いたところで魔女組合の受付にそう言いに行くと、壁にかけられた《扉》へ案内された。精緻な細工の《扉》を開けば、壁ではなく別の場所が見えている。私は躊躇いなくその中に飛び込むと、薄い幕を通り抜ける感覚と共にどこか違う場所に着いた。……と言っても、あまり離れたような感覚はない。パインロルト魔女組合支部の建物と同じような壁があるが、その広さは明らかに一階部分より広かった。かと言って、外から見たこの建物が漏斗のような形をしていた記憶はない。

 長机の上に《ドール》の手や足や瞳が広げられ、鐘が鳴る前からいたのかもしれない魔女達が早速品定めをしている。彼女達の中には《ドール》を出している魔女もいて、彼らは主の望むように新しい部品を自分に試着したり、意見を述べたりしているようだった。


「お嬢さん、パインロルトの小市は初めて?」


「あっ、そうなんです。ここは……どこなんですかね?」


「ここは二階の部分を、箱庭と同じ仕組みで広げているの。それで沢山の魔女を集められるのよ」


 小市の受付か何かであろう魔女にそう言われて、納得した私は彼女にお礼を言った。彼女は「別にいいわよ」と軽く言ってくれた後、ここの決まりを教えてくれた。

 《ドール》は出しても構わないこと。時間と状況が許せば、手や瞳の試着をしても構わないこと。小規模な分、何か問題があれば即刻摘み出されること。揉め事を起こせば、パインロルト魔女組合支部の裁量で裁かれること。


「何か質問はありますか?」


「使いたい頭だけあるんですけれど、それに合う体を試着するのは大丈夫ですか?」


「まだ核がないということかしら。もちろん、大丈夫よ。ただ、他に待ってる魔女が沢山いる時とかは、勘弁してあげてね」


「わかりました」


 私はそう頷いてから、受付の奥にある魔女達の露店の方へ目をやる。とりあえず、端から行ってみよう。

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