表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
28章 クロスステッチの魔女と体探しの旅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

629/1069

第629話 クロスステッチの魔女、おいしいお魚を食べる

 酒場『大熊と林檎亭』に入ると、夕食には少し早い時間とはいえ、酒場はもう営業していた。私たち以外にはお客がなく、酒場の人々の会話が一瞬止まる。


「お魚が食べたいんだけど、まだ早かったかしら?」


「まあ、今から焼くんでお時間はもらいますね。何を食べられますか?」


「今日この街に来たの。一番おすすめを頂戴」


 クマのように大柄な店主が、飲み物の入った木のジョッキを持ってきてくれた。彼はへにょりと困ったような顔をして、私に聞いてくる。


「当店自慢の林檎水でさあ。ところで魔女様、小さいお連れさんにも小さいの用意した方がいいですかい?」


「ええ、もらえるなら嬉しいわ」


 頷いた店主が奥に戻り、給仕が持ってきたのは、かわいい絵のついた明らかな子供向けの小さいジョッキだった。私と大差ない年齢の彼女は、林檎水をルイス達に三人分置いた後、声を潜めてこっそり教えてくれる。


「この小さな子供向けのジョッキ、実は店長の手作りなんです。絵もあの人が描いたんですよ」


「これを!?」


 小さな林檎の花の絵がついた、白木のジョッキはそれでも三人……特にキャロルには大きすぎるようだった。それでも心づかいが嬉しくて、私達は楽しく料理が来るのを待つ。キャロルには前に買っていたキャロル用の大きさのジョッキに、林檎水を汲んで渡した。


「ただの水じゃなくて果実水ってのもいいわよね」


「すっきりしていておいしいです」


 そういえば、店に入る時に大きな林檎の木が隣に生えているのが見えた。きっと、あの林檎を使っているのだろう。あの林檎の木と店主で、『大熊と林檎亭』なのだと思うとおかしくて、私は楽しみに料理を待つことができた。


「お待たせしましたー、当店の一番人気! 白身魚の甘辛林檎ソース焼きです!」


「おおー!」


 林檎と香辛料の香りと、温められたパンの小麦の匂い。それらが一緒に机に載せられると、食欲をそそった。パンはライムギか何かが混ぜ込んであるようで、ちぎると断面からも白い湯気が上がる。私がルイス達にもパンや魚を分けてやることを見越してか、取り皿もついているし、魚も大きめだった。ご厚意に甘えて、魚とパンを三人にも分ける。


「これは……いいわね」


 バターをつけて少しパンをかじってから、魚を食べる。ふんわりとした白身魚に香辛料と林檎の複雑なソースの味がして、パンに魚を少し切って食べるとこれもまたおいしかった。


「おすすめされただけあるわね。これ、最高!」


「本当においしいです、マスター」


 ルイス達もにこにこと笑って、楽しい食事ができた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ