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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
28章 クロスステッチの魔女と体探しの旅
624/1029

第624話 クロスステッチの魔女、祈りの街に着く

 とても、静かな街だと思った。それが、第一印象だ。ファルミクリアの街は、すべてが墓場というわけではない。私達が入ってきた門から一番奥にあるのが魔女の眠る花園で、その前にある街のほとんどは、街を訪れた者や墓守衆と呼ばれる《ドール》たちのためにある……と、習った。ここに定住している人、というのは少ない。《天秤の魔女》たちの本部もここにあるけれど、定住しているわけではないらしい。


「静かですねー……」


 自然と声をひそめたルイスの言葉に、私も頷いた。昔にお師匠様に教えてもらった、死者の都のような場所だ。まだ、ここは生きている者達の場所のはずなのに。


「あれが、《天秤の魔女》の建物ね。ガヘリア様が言ってた通りだわ」


 それなりに大きな鐘楼に、大きな鐘が吊り下げられているのを指差す。そこにはステンドグラスによって、大きな天秤が描かれていた。鐘楼の前に着くまでの間、びっくりするほど誰にも会わないのがゾッとする。人の足跡は感じるのに、街なのに誰にも会わない、というのが、こんなに不気味だとは思わなかった。森の野宿も苦ではないのに。


「なんか、変だね……」


「あるじさま、ぎゅってしててください」


「僕が前を歩きます」


「特別な場所だから、失礼がないようにしたいけど……すごく、変な感じ」


 自分の足音がやけに大きく響く中、無事に鐘楼の前まで着いた。太いノッカーを叩く。


「ごめんくださーい、リボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの三等級魔女キーラです。《天秤の魔女》第五席、棒針編みの二等級魔女ガヘリア様にお会いしたくて参りました」


 扉の前で少しだけ声を張ってみると、重い両開きの扉が内側から開いた。石を磨いた床を踏み鳴らしながら、とっておきの靴を履いて出るべきだったかもしれない、なんて考えたりもする。


「ようこそお越しくださいました、咎なき魔女様。我が主、ガヘリア様がお待ちです――あら? 一人増えたの?」


 よそ行きらしい例と挨拶の後、ころりと表情を変えて私達を迎え入れたのは、見覚えのある《ドール》だった。胸元に天秤の刺繍を入れた黒いドレス姿の、ガヘリア様の《ドール》、リリィだ。確かに彼女達に会ったのは、キャロルを組んでもらうより前だった。だから手短に「新しい子よ、キャロルっていうの」と紹介をしてから、リリィに案内されて奥へと進むことにした。螺旋階段を昇り、何階かの扉を通り過ぎながら、上へ奥へ。すれ違う魔女も《ドール》もない、本当に静かな場所だった。

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