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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
27章 クロスステッチの魔女と引きこもってみる日々
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第619話 クロスステッチの魔女、春の足音を聞く

 四人で年越しを祝ってから、春までの時間はあっという間の気がした。魔法を作り、それ以外の裁縫の勉強も少ししていると、時間は早い。刺繍を袋物に加工したり、ちょっとした入れ物にしたりするから、基礎の基礎は一応習っている。けれど、あまりやっていないから、これであっているかの自信はいつもなかった。


「主様ー! お出かけしてくるねー!」


 アワユキはいつも元気に跳ね回っていて、雪の中に出て行っては色々なものを持ち帰っていた。年が明けてからの、冷え込みが一番厳しい中で特に元気にやっている。魔女だし暖炉に火を焚べていても、私はあまりこの寒さの中で窓は開けたくないんだけどな。外にも出たくない。そんな中でこそ、アワユキは特に元気そうだった。最初はルイスがついて行っていたけれど、元々雪の精霊であるアワユキの方が雪の中では慣れている。だからそのうち、一人で出かけるようになっていた。


「見て見てー! 拾ったー!」


「あらまあ、今日も大()だったのね」


 口にしてから、あまりこの言い回しはよそでは言わなかったかしら、と思ったけれど、アワユキから聞き返されることはなかった。

 アワユキが持ち帰ってくる物の大半は小綺麗ながらくたで、残りは少々の魔力がある素材だった。魔氷の芯や、冬の最中でも咲く雪白草、精霊の置き土産と言われる精霊石の欠片。ものすごく強力ではないが、あると魔法の選択肢が広がるそれらを私が喜ぶから、アワユキは連日外に出ていた。


「マスター、最近は冷え込みがマシになった気がしませんか? きっと、もうすぐ春ですね!」


 ルイスがそう言い出したのは、アワユキの中でお出かけの流行が落ち着いた頃のこと。確かに廊下に出た時の冷え込みが前より厳しくなくなったな、と思う頃だった。


「多分、もうすぐあの瞳の抽選結果も出ると思うのよ。その時は、どうしようかしら。もし当たってたら、新しい子を増やすとして……」


「僕に使ったりはしないんですか?」


「私は、今のルイスの瞳が気に入ってるからね」


 そう言って、私はルイスの頭を撫でた。赤い瞳は、元からあった物。歯車の瞳は、友人の《名刺》でもあるもの。そう言えばしばらく連絡を入れてないから、今度水晶で話してみてもいいかもしれない。


「アワユキは、新しいお目目より今の方が好きー!」


「そもそも変えられるように作ってないからねえ」


「あの、わたくしも、今の方が好きです」


「みんな嬉しいことを言ってくれるじゃない」


 そんな会話をしていた頃だった。春と共に、一通の手紙が来たのは。

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