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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
27章 クロスステッチの魔女と引きこもってみる日々
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第596話 クロスステッチの魔女、キノコを調べる

 紫に赤い斑点だなんて目立つキノコ、すぐに見つかると思ったのだけれど。案外これが見つからないまま、半日が経過していた。あまり絵が描かれていない図鑑だから、文章を読みながら特定しないといけないのも、うまく見つからない理由のひとつだった……と思う。


「い、意外と見つからないわね……」


「マスター、キノコ図鑑って確かもう一冊ありませんでしたっけ?」


「そうだったわね。持ってきてくれる?」


 独り立ちした頃、お師匠様に『はい、食用キノコ図鑑と魔法キノコ図鑑ね』と言われて渡されたことを、ぼんやりと思い出した。ついでに、『キノコは難しいから、あんまり手を出さない方が安全よ』と言われたことも。

 ルイスが持ってきてくれたもう一冊のキノコ図鑑をしばらく見ていると、やっと見つけることができた。


「あ、多分これじゃないかしら! えーと……『幻霧キノコ』、かじると幻を見たまま最悪死んでいく毒キノコ。魔法としての活用は……できるけど、二等級以上が必要、と。糸に加工はできるみたいだから、糸にだけしてしまいこんでおこうかな」


「大丈夫なんですか、それ」


「……紡ぐだけ紡いで、念入りにしまいこんで丁寧にラベル作っておけばいいかな」


 なんとか対処法を編み出したところで、実際に作ってみることにした。手袋をしたまま幻霧キノコの先端をひねり、繊維を抜き出していく。


「危ないから、みんな近寄らないでね。《ドール》にも影響あるように見えるし」


 お腹を下すとかなら《ドール》にも問題ないのだけれど、このキノコの毒は迂闊に摂取すると魂に入り込むらしい。アワユキは平気だったのは、彼女が精霊で普通の魂と違う存在だからだったのだろう。抜き出した繊維をスピンドルに結び付けて、少しずつ糸にし始めた。


「綺麗な紫色ですね」


「きれーい」


「毒キノコじゃなかったら、あるじさまに使ってほしかったんですが」


 本当に、糸自体はとても綺麗なものだった。何もしなくても艶やかに光る、紫色に時折赤の混じった糸。上手に細く抜き出すことに成功したので、普通の針の穴に通せそうな糸だ。あまり大きくないキノコだけれど、細く長い糸にできたのはいいことだった。それなりの量が錘に溜まっていって、大きめの一かせの糸になる。


「この糸のことを、私は秘密の武器とすることにしたわ」


「強そうな魔物とか、《裁縫鋏》とか、そういう時にこれを投げたら逃げられそうですね」


「でも危なそうだから、気を付けてねー」


「アワユキが持ってきたんでしょう!」


 かくて、奥の手の奥の手を手に入れた後、すぐに冬が来た。

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