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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
26章 クロスステッチの魔女と巡礼の旅

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第589話 クロスステッチの魔女、火の精霊に話をする

 火の精霊達に、私は様々な話をした。他の精霊溜まりのことや、《魔女の夜市》のこと、魔法のこと。人間のことに、魔女のこと、《ドール》のことも。火の精霊たちは私の話を興味深く聞いていてくれていて、時折、相槌のようにパチパチと火の粉を飛ばしたりもしてきた。


『おもしろーい』


『たのしーい!』


 私の話のひとつひとつに、精霊たちはきゃっきゃとはしゃいでくれる。多分、このレーティアの山に来る人も少ないから、彼らは娯楽に飢えていたのだろう。精霊溜まりまで巡礼する人がいても、山登りはおそらく簡単なものではない。


「……私が知っているお話は、こんな感じかな。どうだった?」


『おもしろかったー!』


『ありがとー!』


 きゃいきゃいとはしゃいだ火の精霊達が、私に近づき『手! 手を出して!』と言ってきた。言われた通り手を出すと、キラキラとした何かが手に落ちてくる。どきりとはしたけれど、幸いにもあまり熱くはなかった。綺麗な石がいくつか、私の手の中にコロコロと落ちてくる。それを見て、私はお師匠様の言葉を思い出していた。


『地面に埋まっている石は基本的に、土の精霊の領分だ。けれど、例外がある。石のいくつかは、火の精霊が作り出すものもあるんだ。これらの石の中から、火の精霊の作るものを出してみてご覧』


 弟子入りして数年が経った後の頃、そう言われた私は、お師匠様が綺麗な仕切りつきの箱に収めていた石——お師匠様はそれを、魔法に使うためのものではなく標本だと言っていた――のいくつかを見て、うんうんと考えていた。見覚えのある、白に黒の斑点の入った石を何気なく手に取った時、お師匠様に「わかってるじゃないか」と褒められたものだったのだ。私の故郷で、時折見た石だった。


『これは、火を噴く山から採れる石だよ。火の力が強い場所で採れる。貴族が珍重する石でね、床や家具に使うんだ』


『普通に故郷に転がってましたよ。小さい奴でしたけど』


『大きい奴なら、採掘業になったんだろうけれどね』


 小さい石が時折見つかって、人間だった頃の私はそれを時折、拾い集めていたのであった。あれは白と黒だったけれど、今、火の精霊が私の手に置いていった石は、お師匠様が花崗岩と呼んでいたそれに似ていた。白に、赤の斑点が入っていて、持ちあげてみると少し透き通っているような気がする。


「綺麗な石!」


『魔女、喜んだ!』


『あげる!』


 絶対に、ただの石ではないだろう。魔力の感じる石を手に握って、私は心から彼らに礼を言った。

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