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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
26章 クロスステッチの魔女と巡礼の旅
581/1022

第581話 クロスステッチの魔女、雨宿りの兄妹と話す

 二人はすっかり濡れ鼠で、天幕の足元にも水気が広がっていくほどだった。びしょ濡れの兄妹に、私が普段水浴びの後に使っている布を渡すと驚いた顔をされた。


「とりあえず、髪の毛の水だけでもこれで拭いてしまいなさいな」


「ありがとうございます……ほら」


 兄の方は受け取った布を自分には使わず、彼女の肩までかかる栗色の髪をやや乱暴に拭き始めた。微笑ましい光景を見ていると、ルイスが熱いお湯で紅茶を淹れるいい匂いが天幕中に広がってくる。


「お茶が入りました」


「ありがとうございます。ほら、兄さんも出して出して」


 二人は自分の分のマグを持っていたようで、ルイスは私に最初の一杯を淹れた後は、二人のそれに彼が紅茶を注いだ。熱い紅茶でひと心地ついたところで、「はっ」と気づいた様子の妹が兄の腕をバシバシと叩きながら「に、兄さん兄さん! 名前、名前!」と声を上げる。おそらく小声で言ったつもりだろうけれど、雨音に紛れてしっかり聞こえていた。


「飲み物までありがとうございます、魔女様。俺はハンス・イゼルク。こっちは妹のグレーテ。今は二人とも、巡礼者です」


「私は、クロスステッチの三等級魔女キーラ。紅茶を淹れたのがルイス、ぬいぐるみがアワユキ、ちっちゃい子がキャロルよ」


 私の言葉に合わせて三人が愛想よく手を振ったりすると、グレーテはにっこりと笑って小さな手を振り返した。ハンスの方はそういう愛想があまりないようで、「よろしくお願いします」と小さく呟くだけだった。


「二人は、どこを目指しているの?」


「私達は故郷を出て、《クーリールの風の精霊溜まり》を目指していました」


 それなら行ってきたところよ、と言うとハンスが「どんな場所でしたか!」と食い入るように聞いてきた。彼らは身近な誰かを失い、その人が生まれ変わった精霊がいるかもしれない、と思って巡礼の旅に出たのだろう。それを誰かは、聞かなかった。

 クーリールの話をしている間も、雨が弱まる気配はない。長くなりそうだから、この二人も今日は泊めていくべきだろうと考えた。日が落ちて――多分、本来ならそれくらいの時間だ――雨はますます冷える頃合いだ。余計に、客人を外へ放り出す真似もできない。


「今日は二人とも、泊まっていきなさい。寝るくらいの場所はあるから」


 少し魔力を天幕に注ぐと、さらに空間が少し広がった。これで最低限の寝場所くらいは、確保できるだろう。魔法の火に服を乾かさせるように言うと、二人は恐縮してそれを受けてくれた。


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