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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
26章 クロスステッチの魔女と巡礼の旅
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第576話 クロスステッチの魔女、風の精霊の力をもらう

 小高い丘のてっぺんに、石を組んだ誰かの手製の祭壇がある。木はなく、柔らかい青草が風にしなりながら、時折花びらを散らしていた。それが、《クーリールの風の精霊溜まり》。風の精霊が集まる地に、相応しい場所のような気がした。余計なものがなく、好きなだけ風が吹き渡っていく。

 草の香りの風の精霊は、私の周りを吹き抜けながら声をかけていった。


『魔女だ』


『魔女だー』


『どうしたの?』


 他の精霊の声も、風のびゅうびゅうという音の中で聞こえていた。私は今までの二か所でそうしてきたように、丁寧な礼の姿勢を取る。


「世界駆ける御方々、種を飛ばしあらゆる物を撫でていく御方々。私はリボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの三等級魔女キーラ。どうか少しばかり、この地にて風をもらう許可をいただきたく思います」


『丁寧な魔女だね、風をもらってどうするんだい?』


 草の風がそう言うのに対して、私は《精霊樹》の植った庭を開き、水と土の篭った石を出した。


「《もうひとつの森》で分けていただきましたこの樹を撫でるための風を、この石にいただきたいのです」


 くるくると渦を描きながら、小さな精霊達が近寄ってきているのがなんとなく見える。水滴や雫の姿をしていた今までの精霊達や、家を掃除するために招いた風の精霊達と違って、一番見るのに目を凝らさないといけなかった。それは、彼らがまだ幼い風だからなのだろう。事実、草の香りのする《口あり精霊》の風は、この中では一番よく見える。うっすらと緑色をしているからだ。


『それらを強奪しているわけでなし、みんな、ここに風を注いでおやり。魔女よ、石を風に任せて』


 せっかく整えた私の髪の毛をぐしゃぐしゃにしつつ、私の手の中から風が石をもぎ取っていった。それを手放して見ていると、風の精霊達にくるくると遊ばれた石が空中を跳ね回っているのがわかる。まるで子供の頃に見ていた、ボール遊びの光景のようだった。


「すごく高くまで行っちゃったわね、石……」


「ちゃんと戻ってこれますよね?」


「さすがに戻って来ない、なんてことはないはずだけど」


 空にあるものは、魔法がなければ大体落ちる。洗濯物でも、石でも、人間でも。落ちないのは太陽と月と星、そして魔女くらいだ。だから私が魔法をくわえていない石は、精霊達の気分次第でうっかりすると落ちる。きゃらきゃらと幼い子供がはしゃいで笑うような声を聞きながら、私は少しだけ遠い目をしていた。地面は土と草だから、大丈夫のはずだけれど。

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