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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
26章 クロスステッチの魔女と巡礼の旅
574/1021

第574話 クロスステッチの魔女、宿で一晩泊まる

 巡礼宿に入ると、数人の視線が私の方へ向けられた。青年が一人、カウンターの中にいる。老夫婦が机に向かい合い、何かの飲み物をもらっている。彼らは私に目を向け、首飾りと《ドール》達に、魔女と気づいて不思議そうな顔をした。彼らは皆、腕にビーズの腕輪をつけている。巡礼者だ。魔女であり、私の腕に同じものがないことを疑問に思ったのだろう。


「私は、クロスステッチの三等級魔女キーラ。《クーリールの風の精霊溜まり》に風の精霊を詣で、その力を分けてもらいに来た魔女です。今夜は一晩、泊めてくれるかしら?」


 笑顔を作ってそう話すと、宿の主人らしき青年が「よいですよ。ようこそ魔女様」と椅子のひとつを勧めてくれた。ありがたくそこに座ると、足を洗うタライの水と拭き布、飲む水がすぐに出された。靴を脱ぎ、素足を拭うと心地が良い。いつの間にか入り込んでいた、細かな砂が落とされて行った。後で全身綺麗にさせてもらいたいところだけど、大方、《クーリールの風の精霊溜まり》でも砂だらけになるだろう。トゥルーリィヤで買っていた外套がなければ、きっともっと砂だらけだっただろう。


「私、魔女様と同じ宿に泊まるなんて初めてだわ。ねえあなた」


「……そうだな」


 老夫婦のうち、夫人は私に興味津々なようだった。せっかくなので、私も少し話すことにする。


「私はエルラ村のミリー。この人は夫の、エルラ村のポール。二人で昨日、《クーリールの風の精霊溜まり》を拝んできたのよ。夫は蜂飼いなの」


「まあ! 蜂飼いはいつも、魔法のように蜂蜜を取ってくるから不思議だと思っているのよね」


「……単なる仕事だ。蜂蜜は、蜂が溜めたものを分けてもらっているにすぎん」


「ごめんなさいね、この人お話しするのが苦手なの。そこがかわいいんだけどね」


 ミリーがくすくすと笑って言った言葉に、ポールは髭の下で憮然とした表情をしているのがわかった。話のついでに蜂蜜を勧められたので、少し買わせてもらう。先に、とひと匙舐めさせてもらった蜂蜜は、とてもおいしかった。


「アワユキも、アワユキも一口欲しいー!」


「買った蜂蜜を、今度パンに塗ってみんなで食べようね」


 小さな子供のように駄々をこねるアワユキや、蜂蜜をじっと見ていたルイスとキャロルにも、ミリーは蜂蜜を舐めさせてくれた。


「すみません、うちの子達がワガママを」


「この子達が噂の、魔女のお人形さんね。かわいいじゃない。ねえあなた」


「……まあ、醜くはない」


 老夫婦は話ぶりが全然違うものの、それでもうまくやっているようだった。

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