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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
24章 クロスステッチの魔女のへんてこな冬
566/1021

第566話 クロスステッチの魔女、水をもらう

 《ナルーアの水の精霊溜まり》は美しい場所だった。虹の上を様々な大きさの水滴が跳ねているのは、水の精霊たちだろうとわかる。私達の存在に気づいた彼らは、ぴょこんと跳ねて私達の元に飛んできた。


『わー、魔女だー!』


『どうしたの? お水取りにきたの?』


 私ははじめましてよ、と言いながら、《ノーユークの土の精霊溜まり》で精霊たちにそうしたように、膝をついて胸元に両手を交差させ、挨拶するために礼の姿勢を取る。


「世界潤す御方々、虹をかけあらゆる生き物を育み給う御方々。私はリボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの三等級魔女キーラ。どうか少しばかり、この地にて水をもらう許可をいただきたく思います」


 雫の精霊の中でも一際大きな雫が、私の礼に答えて現れた。おそらくアメジストの精霊のように、ここの口あり精霊……長老のようなものなのだろう。老婆の声がした。


『お若い魔女、礼を忘れず許可を求めるのであれば《ナルーアの水の精霊溜まり》はそなたを歓迎しますよ』


 大きな雫の精霊には、自らの水で育んだものだろう苔がついていた。それで、透明なほどに青い雫の中に、濃い緑色が一部で浮いている。

 私は《魔女の箱庭》を取り出し、口あり精霊に植えた枝を見せた。土の精霊たちの厚意で、まだ湿り気自体は残っている。けれど、それも時間の問題だ。普通の泥が乾くよりゆっくりだろうけれど、いずれこの泥も枯れていく。


『珍しいものを育んでおるのう。奪ったものではなく、与えられた枝を見るのは久しぶりじゃ』


『枝だー』


『精霊樹だー』


『枝をもらった魔女だー』


 他の小さな水滴の精霊たちが、好奇心に満ちた光でキラキラしながら私たちに近寄ってきた。


『お水? お水欲しいの? 枝にはお水がいるもんね!』


『あげるー!』


 わらわらと近寄ってきた精霊たちが、空中に水の雫を溜め始めた。大きな水の球になったそれをそのまま私に渡そうとしてくるので、唸ってかかった飛沫の一部が私の服を濡らす。結構、派手に。


「わぷっ」


『アメジストの爺から、もらった石があるじゃろう。それをお出し』


 なんとか箱庭に入れていた石を取り出すと、水の精霊たちが作り出した水の球がすべて、そこに吸い込まれていく。あれだけあった水が、すべて吸い込まれてしまった。苔の口あり精霊は『こやつらは若くてのう』と苦笑の声を漏らす。


「頼られるのが嬉しいんですかね」


 うむ、と精霊は頷いた。ここは巡礼者は多いが、最近は祈りに来る者が多くて頼ったり縋ったりする者は多くないらしい。魔女が来ると頼られると思って、張り切るのだと教えてくれた。

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