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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
24章 クロスステッチの魔女のへんてこな冬
557/1024

第557話 クロスステッチの魔女、《土の精霊溜まり》に辿り着く

 朝に出て、細い道を歩いて、かれこれ半日。干し魚のスープとパンの簡単な食事を終えた私達が目的地に着いたのは、珍しいことをした足の疲れを無視できなくなってきた頃合いだった。強い土の魔力を感じながら、道の続く方へ一歩進む。木々が目隠しになったその向こうへ行くと、そこは《ノーユークの土の精霊溜まり》だった。

 一面に柔らかい泥。その上で咲く、薄黄色の精霊蓮。小さな土の塊、小石、丸くなった泥などの姿になった土の精霊たちが歌いさざめき、ころころと遊んでいる。魔女と《ドール》と精霊の気配に気づいた土の精霊の何人かは、こちらに興味のある目線を向けていた。私はお師匠様に習ったように、膝をついて胸元に両手を交差させ、挨拶するために礼の姿勢を取る。


「大地支える御方々、宝石を実らせ我らの手を授けたもう御方々。私はリボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの三等級魔女キーラ。どうか少しばかり、この地にて土をもらう許可をいただきたく思います」


 《魔女の砂糖菓子》を山盛りにした器に、土の精霊達が群がってくる。そしてキャッキャッと幼い精霊達が砂糖菓子を頬張り、泥をあたりに撒き散らし始めた。私の服と体にも盛大にかかる。泥だらけになる覚悟を、と言っていたのは、おそらくこれのことだろうとわかった。


『じいー! じいちゃー! あまいー!』


『すごーい! じいちゃー! きてー!』


 アワユキよりも幼いらしい。泥だらけになった私に、同じように泥を浴びたルイスとキャロルがあわあわとしていた。二人のも汚れても良さそうなものへ着替えさせておいた判断は、間違ってなくて本当によかったと思う。一応まだ大人しく礼の姿勢を崩さないでいると、ごろごほと何かが転がってきたのが見えた。


『顔を上げるが良い、お若い魔女よ。ここに魔女が来るのは、随分と久しぶりのことじゃのう』


 自らの意思で転がってきて私に話しかけていたのは、ゴツゴツとした石だった。目のような形の切れ目から、内側にびっちりと紫色の石ができているのが見える。多分、アメジストだ。


『前の魔女は宝石を集めたいと言っておったが、そなたの目的は?』


 宝石好きな魔女で一人心当たりはあるけれど、それは置いておいて、私はカバンに入れていた《精霊樹》の枝を出した。役割は接木というか、種のようだとわかっているけれど、見た目はどう見ても枝だから枝と呼んでいる。


「縁あっていただいたのですが、これを育むための土を拝借したく」


 ふうむ、とアメジストは枝の周囲を転がり始めた。

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