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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
24章 クロスステッチの魔女のへんてこな冬
554/1022

第554話 クロスステッチの魔女、巡礼宿に辿り着く

「……ようこそ、ノーユークの巡礼宿へ」


 宿に入った私を迎えたのは、無愛想な一人の老人だった。真っ白い髭が顔中を覆い、世捨て人のように薄暗い宿の机に座っている。老人の腕にはビーズの腕輪が巻かれていて、私が開いた扉の向こうから射し込む日の光で光って見えた。

 明かりをつけないでいるには、まだ昼間のはずなのに少し暗い部屋だった。窓が、部屋の大きさに対して小さいからかもしれない。しかも、ひとつしかないし。ちゃんと挨拶をするために、少し息を吸って話すことを頭で組み立てた。


「こんにちは、私はクロスステッチの三等級魔女キーラ。《ノーユークの土の精霊溜まり》の土が欲しくて、このあたりまで来たの。今夜は泊めてくださるかしら?」


 まだ三等級と名前を言うのには慣れないけれど、なんとかそう言ってみる。男は「……アルマンだ、好きにしろ」とだけ言って宿の奥に向かった。口の中で少し籠るような短い話し方は、故郷のそれに少し似ている。多分、寒い地域の農民とかなのだろう。

 ノーユークはエレンベルク西部にあるから、この辺りの人とは少し違う話し方なのはなんとなく分かった。ちなみに、私はお師匠様に話し方をみっちり矯正されたので綺麗な中央発音ができる。訓練は……あまり思い出したくない。舌が多分、何回か攣ったし、口の筋肉が筋肉痛になった。今は中央発音を叩き込まれてからの方が長いから釣られないけど、でも、少し懐かしい。


「魔女が泊まりに来るのは、数年に一度ある。《精霊溜まり》の精霊達を害するようなら許さないと、警告はするからな」


「私はそんなことしませんよ、あそこの土が欲しいだけ。明日にはノーユークから出ていきますので、ご心配なく」


 宿から目的地までは、それなりの距離がある。安全圏ギリギリに建っているとはいえ、もう真昼は過ぎた。これから日は落ちていく一方の中で向かうのは危ないから、私は部屋で魔法を扱うことにした。


「……部屋はここだ。他に客はいないが、つるさくしないでくれ」


「わかりました」


 私はそう頷いて、自分の部屋を見た。巡礼宿なんて建てるのは、魔女とは別に現世の暮らしを捨てた人がほとんどだ。なので、最低限の機能しかない。この部屋も、ベッドと小机がひとつあるきりだった。思っていたより狭くないと感じるのは、多分、宿の特性と立地から、あまり人が来ないと踏んでいるからだろう。実際、宿はひどく静かだった。今までもあちこちの宿に泊まったことはあるけれど、多分、一番静かだ。悪くない。


「さて、もう少し魔法を見てみるかね」


 とはいえただのんびりするよりは、と私は魔法を学ぶべく本を開いた。

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