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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
24章 クロスステッチの魔女のへんてこな冬
548/1022

第548話 クロスステッチの魔女、新たな名を名乗る

 魔女達はそれぞれに呼ばれては前へ出て行き、銅色の首飾りに変えられて、新たな名前になって自分の《ドール》の元へ戻ってくる。そういう魔女が増えていく中で、とうとう、私の名前が呼ばれる番が来た。


「リボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの魔女、前へ」


「はい」


 私は呼ばれるままに前へ進み出た。硝子を大分落とし、それでもまだ美しい樹の前に片膝をつく礼をとる。私の前に立った魔女が、私の頭に触れながら決まり文句を唱えた。


「汝、これより真名の名乗りを許され、魔女として階梯をひとつ上がるものとする。汝が前にある道は広く拓け、糸の親の手を完全に離れ、汝はひとりの魔女となる。その覚悟はありや?」


 そうか、これで完全に独り立ちをするんだ。少し寂しいような、誇らしいような気持ちになるのはきっと……私が、顔の知らない生みの親より、心を通わせることはなかった育ての夫妻より、お師匠様を親のように思ってるからだろう。でも、グレイシアお姉様を思い出す。時々遊びに来ていた。独り立ちはしても、縁が切れるわけではない。――だから、大丈夫。


「はい、ございます」


 私の首飾りが外される。胸元が軽い感覚は、随分と久しぶりのものだ。少し、不安さえある。けれど、完全に途切れたわけではない、と感じた。途切れてしまえば、それは魔女を辞めるのと同じなのだろう、とも。

 ちらりと見上げた私の首飾りは、硝子の球の中に一度収められた。そして硝子が自ら縮むようにして、四等級の青い硝子を新しい硝子が上から覆い隠していく。完全に元と同じような大きさになったかと思うと、それは銅色に光った。変わった首飾りが、私の首へ再びかけられる。

 前より、少し重くなった。この重みは等級が上がった分の、新たな責任とでも言うべきなのだろうか。背筋が、自然と伸びた。


「名乗りなさい、これからの名を」


 立ち上がり、他の魔女達へ、ルイス達へと振り返る。何対もの目が、私を見つめていた。

 ――いかにも単純な、自分の名前が嫌いだった。誰がどんな願いでつけたかもわからない、願いなんてなかったかもしれない、私の名前なんて。叶うなら、祈りがわかる名前がよかった。でもまあ、これが私の名前なのだ、仕方ない。受け入れるしかないのだ。

 それに、これからこの名前があれば、私を彼女と混同する人もなくなる。これからは、クロスステッチの魔女といえば私にしてしまえばいいのだ。だから、名乗った。


「私はリボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの三等級魔女――キーラ!」

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