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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
24章 クロスステッチの魔女のへんてこな冬

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545/1070

第545話 クロスステッチの魔女、試験結果を見る

 ――紙には大きな文字で、こう書いてあった。


『刺繍一門の一人、リボン刺繍の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの四等級魔女キーラ。この者を、三等級魔女に認める』


「ご、合格、合格しました!! お師匠様! やりましたー!」


 思わず、紙を手に飛び上がってしまった。お師匠様やルイス達にも見えるよう、試験結果の紙をそちらへ向ける。


「よしよし、ちゃんと受かってくれたね! 今夜はいいものを食べさせてやろうじゃない」


「「おめでとうございます、マスター/主様!」」


「おめでとー!」


 私たちが騒いでいると、台所仕事をしていたイースとステューもこちらを覗き込んだ。私が喜んでるのを見て、「おめでとうございます」「おめでとう」と祝ってくれる。


「それなら今夜のお料理は、残念会ではなくおめでとう会ですね。よかったです」


「どっちになるかなーって思ってたからねぇ」


 これで心置きなくご馳走の用意ができます、と言っているあたり、私が不合格でも残念会と称して『いいものを食べさせて』はくれたらしい。せっかくだからご馳走になって、保存食祭りは別の日にやることにした。イース達が台所に行くのをルイスが「僕も手伝います」と追いかけていく。


「あ、他にも書いてありました。ええと……三等級への更新のため、次の満月に最寄りの魔女組合へ来られたし、だそうです」


「ちゃんとした格好で行くんだよ。普段着で行ったら笑い者だ。四等級合格の時の奴を着てお行き」


「わかりました、お師匠様」


 明日、あの服に軽く風を通しておこう。そんなことを考えたりもしていたけれど、解放感と安堵で頰が弛むのは止められなかった。


「弟子がちゃんと合格してくれて、あたしも嬉しいよ。名前で呼ぶ日が楽しみだね」


「あっ、三等級に更新されたらなんですか?」


 そうだね、とお師匠様が言う。三等級になると、元々の名前を使ってもよくなるのだ。そこまで私は名前に思い入れがあるわけではないし、クロスステッチの魔女と呼ばれた時間の方がやや長いくらいだけど、ひとつの大きな区切りではある。住み込みだった頃は、他に見習いがいないからずっと「見習い」「弟子」と呼ばれてたっけ。


「あんたをとうとう、名前で呼ぶ日が来るとはねえ」


「はい。……だから、私はもう一人とは違うんですよ」


「そうだね。名前があれば皆、あの子とあんたの違いがよくわかるさ」


 お師匠様は少し遠い目をして、私に魔法で紅茶を淹れてくれた。そうだ、三等級に更新して旅が終わったら、私もこの魔法を教えてもらおう。紅茶と一緒に、ご馳走のいい匂いがしていた。

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