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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
24章 クロスステッチの魔女のへんてこな冬
544/1022

第544話 クロスステッチの魔女、春を迎える

 愉快な年越しの後、春が少しずつ近づく足音が聞こえようとしていた。例えば外に出れば、少しずつ空気は暖かくなっていく。足が踏む雪は、柔らかく緩んでいく。春の訪れは、試験結果がわかってしまうドキドキと同じだったけれど……春が近づいてくることは、嬉しかった。試験結果がわからないままでいてほしくはあるとはいえ、ずっと冬でいてほしいとは思わない。


「もうすぐ春になるわね。試験結果がどうあれ、旅は楽しみだわ……そっちだけ考えるようにしてる」


「マスターなら大丈夫ですよ、きっと合格してます」


「だってあるじさま、頑張ってましたもの」


「見てたもんねー」


 ルイス達に励まされても、今ひとつ《ドール》たちではなく自分を信じられないまま――時間は刻一刻と、春に向かっていた。

 新しく雪が降り積もることも、随分となくなった。食料と薪は今年もやや余らせつつ、冬を終えることができそうだった。完全に春になったら、ちょっと贅沢をしてもいいだろう。薪は残しておけるけれど、いくら保存加工をして魔法をかけたとはいえ、私の力では次の冬まで保たせることはできない。ダメになる前に、食べてしまうべきだった。


「よし、試験結果がわかったら、受かってもダメでも保存食食べちゃう会を開くことにするわ。一部は旅に持っていくことにして、危ないのを食べてしまいましょう」


「ごちそうするのー?」


「そんな感じになるはず!」


 そんな愉快な会話をして、魔法を作って、としている間にも、時間は過ぎていく。少しずつ雪は溶けて、時間は無情にも過ぎていった。

 そして――雪の下から緑色の芽が生えるような、春先。お師匠様の水晶に、私は呼び出された。


『クロスステッチの魔女、試験結果の手紙が届いた。うちにおいで』


「ひえっ」


 ……とうとうこの日が来てしまった。私はドキドキしながら、お師匠様の家に箒を飛ばす。成長の賜物なのか、心そこにあらずと言った状態でも箒は無事に進んでくれた。これで事故を起こしていたら、目も当てられないことになるところだったと思う。


「お師匠様、来ましたー!」


「早くお入り、まだ少し寒いから扉も早く閉めるんだよ」


 家の外で足や箒についた雪を落とし、言われた通りに家に入る。お師匠様の手には厚みのある封筒があって、優美な字で「クロスステッチの四等級魔女へ」と書かれていた。


「自分で開けるんだよ。封蝋に触って」


 魔法で封がされていたのだろう。私が魔女組合の印をされた封蝋に触れると、パキン、と軽い音を立てて封蝋は砕ける。そして、紙が出てきた。

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