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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
24章 クロスステッチの魔女のへんてこな冬

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535/1037

第535話 クロスステッチの魔女、箱を教わる

 箱のいくつかには、『値段については店員にご確認ください』と書かれていたり、明らかに《庭》以外の魔法の気配がするものがあった。


「あのう、この辺りの《魔女の箱庭》には、どんな魔法がかけられているんですか?」


「ああ、こっちの青く塗ってある箱は《早回し》の魔法よ。箱の中だけ時間が早く進むから、時間のかかる植物を手早く育てたい魔女が買っていくわ。緑色に塗ってある方は、《悠長》の魔法。逆に箱の中の時間をゆっくり進めるから、長く生きすぎて普通の《庭》の時間を早く感じる魔女に人気。時に手をかける魔法は複雑で大変だから、それぞれの箱の大きさの値段に金貨一枚、追加でもらっているの」


 箱のいくつかは、彼女が作ったものらしい。貰った《庭》しかないから、どういうものがあるかよくわからない、と言うと、彼女は色々と教えてくれた。

 魔女が有用な植物をいつでも好きなだけ使えるように、と開発された魔法が《魔女の箱庭》。今は細工の一門の専売特許のようになっていて、様々な木や金属で作られた箱の中に魔法を刻みつけているという。効果は私も知っている通り、箱の中の小さな空間を広げて、庭とすること――


「この箱の中に住んだ魔女っているんですかね。例えばそこの《悠長》の魔法の箱の中で作品を作ったら、沢山時間がかけられそうじゃないですか?」


「それは試そうとした魔女がいたけど、うまくいかなかったらしいわよ。ほら、箱を閉じたら空間も閉じてしまうしね」


 それは時々聞く事故だった。私の貰った《庭》には、そういう時に抜け出るための小さな扉がついている。幸か不幸か、使ったことはまだない。箱の蓋が強い風や、家にいる誰かのうっかりや、その他の事故で閉じてしまうと、魔女は普通の手段で出られなくなるのだ。砂糖菓子も出せるし庭というだけあって水もあるから、生きるには然程困らないらしい。失踪したと思った魔女をあちこち探していた時、庭の手入れを代わりにしてやろうとした魔女が蓋を開けると消えた当人が飛び出してきた、という教訓話なら、何度か聞かされていた。私にあの《箱庭》を与えられたのも、安全装置付きだからと真顔で言われたものである。


「小さい扉がついてる箱はありますか?」


「今こういうところに並んでいる箱には、全部ついてるわよ。私も前に危うく閉じ込められそうになったしね」


 彼女はそう言ってコロコロと笑った。そんな呑気な話ではなかったろうに、本当に笑い話にしているようだった。

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