表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
24章 クロスステッチの魔女のへんてこな冬
530/1022

第530話 中古《ドール》、主を見失う

 それには、三人とも同時に気がついた。


「マスター?」


「主様?」


「あるじさま?」


 楽しく話しながら、お役に立てるよう採取をするために下を向いていた顔が、三人同時に上がる。僕が今の名前と心を手に入れた頃からあった、当たり前のようにあった何かが――なくなってしまった。そんな、嫌な予感がする。


「キャロル、これ……」


「あるじさまに、何かあったのかしら」


 アワユキが矢のように飛び上がって、それからぐるぐる上空で回り始めた。僕達も同じ高さまで飛び上がり、マスターを探し始める。きっとなんでもない顔をして枝か石でも、拾っておられるはずだ。そう思いたかった。キャロルが僕より震えているように見えるのは、きっと冬のせいではないだろう。キャロルは僕が忘れている僕でできていて、この心細さの既視感が僕より強いはずだ。


「なんか変な感じなのー! 主様、ここにいるけどいないの!」


 ぐるぐると回りながらそう話すアワユキに「どうしたの?」と詳しく聞いてみる。アワユキは僕たちと違って人間の心から生まれていないから、きっとこの辺りの感覚が違うのかもしれない。


「主様は森にいるのー、《もうひとつの森》なの! でも入口わかんないから、見つかんないの! 布切れの向こうに隠してある林檎の、匂いはしてる感じ!」


「……アワユキは林檎が好きだものね」


 アワユキの例えとキャロルの言葉に、僕も少し気が緩むのを感じた。アワユキは林檎が特に好きで、放っておくと勝手に全部食べてしまうから、と、マスターが布にくるんで隠したりした時期もあったのだ。そうすると、アワユキには林檎が探せなくなったから。

 マスターも同じような状態なら、《もうひとつの森》とやらが、彼女を隠してしまったのだろうか。どうやれば、マスターに会えるだろうか。当たり前にずっといると思っていた人を見失うのは、心が痛かった。太陽が消えたように心細くなるけれど、僕があんまり浮かない顔をしていたら、キャロルとアワユキも不安になってしまう。僕が、しっかりしないと。


「……マスターのことだから、きっとそこでも珍しい花や草を集めていますよ。だから、大丈夫に決まってます。ね?」


「そう、だよね。主様だもんね」


「アワユキ、その森への入り口が見つかったら教えてね。三人で固まって飛んで、もう少し探してみよう」


 二人が頷く。僕達は互いの手を繋ぎ、まるで未知の場所を探索するかのようにして、ゆっくりと慣れた森を飛び始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ