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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
24章 クロスステッチの魔女のへんてこな冬
529/1023

第529話 クロスステッチの魔女、不思議な木の空間に迷い込む

 どこに迷い込んだのだろう、これは。早く帰らないといけないのに、という焦りが胸の中で、せりあがりそうになった。冷静さを欠いてはいけないと自分を抑え、周囲をよく観察する。

 地面全体から、ほんのりと魔力を感じる。木々の隙間は白く光るような状態になっていて、その奥を見通すことはできない。《探し》の魔法を急いで用意して、『私の《ドール》達』と指定してやり、魔力を通す。いつもならなんらかの生き物の形をとるそれは、くるくると風に弄ばれるだけで蝶にもドラゴンにもならなかった。これは、まずいかもしれない。


「まさか家の横の森で、こんなことになるだなんて……」


 幸いなのが、寒くはないことだった。暑くもない、過ごしやすい気温。風もない。ただ、森の木漏れ日から透かし見える雲の色は、同じような白でも何か違う気がした。今日の空模様は薄い灰色の雲だったはずなのに、かすかに虹色がかっているように見える。薄い桃色や、黄色や、青のような……はっきりとは、見てとれないけれど。


「あ、これはいい素材になりそう」


 自然に落ちたらしい枝を拾い上げると、その枝には魔力が感じられた。白っぽい見た目は鹿から落ちた角のように見えるけれど、触った感触は骨ではなく枝のそれだ。緑色の葉が、先端に茂っている。森の木々のひとつが落としたものだと、すぐにわかった。布にくるんで持ち歩くことにして、そのまま出口を探して歩き回る。

 最初に見つけた、自分が入ってきた方角の枝には失敗した《探し》の魔法を結びつけておいていた。おかげで、帰り道を見失う心配はない。……そこから帰れるわけではないから、帰り道という言い方は語弊がある気もするけれど。少なくとも、来た方向はそうやって残すことができた。曇っていては、日も月も星も見えやしない。まだ夜ではなさそう、としか判断ができなかった。

 ――あてのない彷徨の結果、開けた場所に出た。その中心には大きな一本の木が生えていて、七色に光る水晶がそのウロに詰まっていた。六角柱の棘が何本も私に向けられていて、どうしようもなく美しいと思う。晴れていたら、陽の光を浴びてきっともっと美しかっただろう。


「綺麗……」


 私が知っているどの植物にも、鉱物にも、当てはまらない気がした。水晶に、硬い木の肌に触れているだけで満足して、採取しようという気にはならない。そもそもどこもかしこも硬いから、今の私が持っている魔法や道具では取り除けそうになかった。それに、そうして損なってはいけない気もする。とても不思議だった。

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