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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
23章 クロスステッチの魔女の三等級魔女試験
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第519話 クロスステッチの魔女、実技試験を受ける

 「では、これより実技試験を始める」


 そう言った試験官の魔女が指をひとつ鳴らすと、今度は沢山の布、糸、金属、宝石、紙、毛糸と様々なものが飛んできた。どれも色とりどりで、量に差はあるが魔力を感じる。布と糸は私達の机へ、金属と宝石は鎚の机へ、毛糸は棒針の机へ。それぞれに移動をした後、さらに個々の受験者の元へと一式が届けられた。それから、全員の元に図案だろう伏せられた紙が一枚。


「皆さん、自分の道具は持ってますね?」


 裁縫箱などを開き、道具を取り出す音がしばし広がる。お互いに距離もあるから、針なんかが混ざる心配もない。まあ、私たち刺繍の一門だと、そう沢山の道具を出すこともないのだけれど。


「それぞれ、紙にあるものを作成するように制限時間は、この砂時計の砂が落ちきるまで。では……始め!」


 また大きな砂時計が浮かべられ、新しく砂を落とし始めた。私が自分の元に来た紙を捲ると、思わずうっと唸りたくなる複雑な模様が描かれている。幸いなのは、糸の指定が一色だということだろうか。それくらいしか、いい点が見つけられないとも言うのだけれど!

 とにかく指定通り、糸を二本取りにした。描かれている図案の魔法は、《埋め火》の魔法――簡単に消えるような小さい火を作るけれど、他の炎系の魔法と比べて完全には火と熱が消えない魔法だ。その維持の分、普通に火の魔法を刺すより複雑な模様が求められる。安定して作れるようになったら、それこそ冬の暖炉には重宝する魔法だと、お師匠様は言っていた。家の暖炉用に何回か、練習していた記憶を甦らせる。

 使っている糸自体が燃える力のあるものだから、糸が不必要に撚らないように気をつける。折り目をつけて真ん中を決めたら、迷わず針を突き入れた。試験時間を考えると、普段ほどゆっくりとは刺していられない。


(糸を撚らせない、バツ印の向きはすべて揃える、魔力を今は込めてしまわないよう気をつけて――)


 耳にタコができてしまいそうなほど、何度も言われた教え。早く作らなくてはならない、という思いと、丁寧に作らなくてはならない、という思いとを並立させ、釣り合いを取る。どちらかだけになってはいけないけれど、どちらかを捨ててもいけない。一針入れるごとに軽く引っ張り、ピンと揃った縫い目を意識して刺しているうちに、気持ちが落ち着いてきた。


(作ったことのある魔法なんだから、やれる。私は、できる。今までだって、勉強してきたんだから!)


 今は一針一針、続けるしかなかった。

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