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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
23章 クロスステッチの魔女の三等級魔女試験
512/1021

第512話 クロスステッチの魔女、受験の始まりを聞く

 試験会場として通された部屋は広く、それなりの人数の魔女が冊子を読んだり《ドール》の身なりを整えていたりした。私が入ることで視線が一斉に向けられるけれど、青い首飾りをした受験者だとわかると視線は消える。

 長机が大きく分けて三つあり、それぞれの接する壁には鎚、縫い針、棒針のレリーフが掲げられていた。私は縫い針の机の適当なところに、ひとまず腰を落ち着けることにする。


「なんだか、緊張してきたわね……」


「マスターなら大丈夫ですよ、僕達のマスターですもの」


「元気出してー」


「お勉強してたのだって、見てきてましたもの」


 魔女試験において、受験者達は合格を争いあう相手ではない――基本的に。魔女試験は合格者を絞るためのものではなく、定められたところまで力と知恵のある魔女を選ぶためのものだから。

 ルイスには《浮遊》の生成色のジャケットと《身の護り》の刺繍をした焦茶色のベルト、薄緑色のブラウスに生成色のズボンを履かせていた。髪の毛を少し整えてやると、恥ずかしそうに俯く。キャロルには薄桃色の《浮遊》のジャケットと、《身の護り》の模様を裾にあしらった白いワンピースを着せていた。アワユキには、《身の護り》の薄紫色のリボンを首に巻かせている。

 ちらりと周囲を見回してみると、《ドール》を複数連れ歩いている受験者はあまりいないよつだった。一人だけをかわいがっているのか、それとも一人だけ選んで連れて来たのかはわからない。誰かに聞こうかとも思ったけれど、読めるようになった時計が、そんな時間はないと告げているのはわかった。

 おさらいをする時間はなさそうだ、とすっぱり諦め、三人を撫でて心を落ち着かせる。後から数人駆け込んでくる度に、私が見られたようについ見てしまう。そして、時間が来た。


「……受験者全員の到着を確認しました。定刻をもって、三等級魔女試験の開始を宣言します」


 最後に会場に入って来たのは、真っ黒で裾の長いドレスを引いた正装の魔女だった。首飾りは銀色、二等級の魔女。そのドレスにはあちこちに、蔓草のような模様が銀色の糸で刺繍が施されている。


「受験者の《ドール》達は、これから入ってくる私の《ドール》について別室に来てもらいます。細工の一門は鎚、刺繍の一門は縫い針、編み物の一門は棒針の長机へ移動してください」


 何人かの魔女が席を立つ中、監督者の魔女と同じ服を着た彼女の《ドール》が入って来て、軽く手を上げた。ルイスとキャロル、アワユキは彼女について私から離れる。なんだかそれが、寂しいと思った。

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