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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
4章 クロスステッチの魔女と先を願う話
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第51話 裁きの魔女、隠し事をする

「若いっていいねー……」


「ただそそっかしいだけだと思うんだけどねぇ……」


 姉弟子ガブリエラの家の前庭から箒に乗ってどこかへ向かおうとした魔女と《ドール》が、過剰魔力で星になって消えていった姿を見ながら、わたしは内心でほっと溜息をついた。不穏な来訪者が帰って、これでいつも通りの平穏が戻ってくる。


「ねえさま、これでしばらくは糸、大丈夫そうー?」


「うん、大丈夫かな」


「じゃあ、かあさまに伝えてくるねー」


 無事に彼女が帰るのを見届けたところで、わたしはイサークと立ち上がり丁寧にねえさまの家を辞した。わたしがふらっと来てふらっと帰るのはいつものことだから、ねえさまとグウィンも普通に見送ってくれる。


「マスター」


 グースをあしらいながら門を出たところで、イサークが耳元に囁きかけてきた。彼はわたしの代わりに、あの虹核(オパール)の《ドール》と話をして、彼の受け答えが問題ないかを見てくれていた。


「グウィンはきっと、あの《ドール》が目覚めて数日だとは思わないでしょうな。受け答えも自然で、感情表現もしっかりしていました。虹核(オパール)は人間の心を丸ごと加工して作る《ドール》、という話を思い出しておりました」


「中古だとは言っていたけれど、《名前消し》されているから、すべて最初の頃に戻されているはずだものね」


 わたしには、ねえさまに隠していることがある。それは、《裁きの魔女》の仕事だ。クロスステッチの四等級魔女キーラ―――そう、わたしは本当は彼女の名前を知っている―――彼女がガブリエラねえさまのところに羽を納品に来るのは、わかっていた。


『集めてもらった羽をすぐ使いたいから、組合じゃなくて直接うちに持ってきてほしいってお願いしたの』


 ねえさまにそう言われた時、わたしは今回のように彼女が来た時は一緒に居ようと決めていた。表向きは平穏なまま、キーラに感づかれないまま、うまく別れることができて本当に良かったと思う。

 クロスステッチの四等級魔女キーラ。【あの】リボン刺繡の二等級魔女アルミラの弟子。サリルネイアの裁判への関与は、問題なかった。彼女が天啓で受けた魔法の正体はすぐ解析され、悪意がないこと等は証明されていた。問題は、彼女が連れていた《ドール》だ。人を一人、潰して作られた《ドール》。血にまみれた虹核(オパール)の核を宿した個体。《ドール》の核を作る魔法が今のように洗練される前、作成には贄を求めていた頃の時代の名残。もう作らないと決められていたのに、作られてしまった。それが問題だったのだ。


(今は状態も安定しているみたいだけれど、剣を学んでマスターを守りたい、ねぇ)


「イサーク、彼女達はこれからもねえさまのところに羽を持っていくと言っていたから、もしまたあそこで会ったら彼にも良くしてあげてくれる?」


「はい、マスターがそうお望みでしたら」


 《ドール》達は皆、自分のマスターが大好きだ。守りたがるし、願いは叶えたがる。イサークもそうだ。わたしが望んでるから、あの《ドール》を観察してくれると引き受けた。


「彼はもう、夢を持っているようでしてな。願望と予測の力が高いです。普通は、夢を持つのは一年くらいかかりますが……ですから少々、危うくはあります」


「そうね、彼は心の発達が早い。おそらく、元々がカケラでなくすべての心を移されているからだとは思うけれど……不安だわ、あのそそっかしい魔女の元に置いておくの」


 激情に駆られて暴走する《ドール》の事案はいくらでも起きる。そして、箒で飛ぶときでさえ事故を起こすようなあの魔女の元では、そんな暴走はいくらでも起きるだろうと予想されてしまった。

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