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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
23章 クロスステッチの魔女の三等級魔女試験
500/1024

第500話 クロスステッチの魔女、三等級魔女試験に申し込まれる

 壊れていた足を治して、爪紅も塗ってやれば、左足は右足と比べて遜色ない姿に戻っていた。さすが、お師匠様の仕事だ。


「よし、この子はこれでいいでしょう。後は一晩置いて、足を馴染ませてやってから核を起こすだけだ」


「お疲れ様です、お師匠様」


「さ、宿題をお出し」


 即座にそう言われて、私は持ってきていた羊皮紙の束をお師匠様に渡した。あちこちに二重線を引いて、字を直した痕跡のある拙いもの。でも、結構頑張ったし、習い始めた頃よりは字も上手くなった自信がある。これでも、間違いも減った方だし。昔だったら、訂正の二重線は倍はあった。


「ほお……題材もいい。簡単な文章でそれなりに長いもの、をちゃんと選べたとはね」


「紙を何枚もいただいたので、長いものを書けというお達しかなと」


 そうね、と肯定するお師匠様は、羊皮紙から顔を上げなかった。じっくりと見られていることに、緊張してしまう。ドキドキの時間がどれくらい続いたのか……実際は大したことないのだろうけれど、とても長く続いた気がした。


「思ってたよりは、よく書けてる。書き写してやる分には、まあまあね。次はお手本なしで書いてもらうよ」


「うっ」


 お褒めの言葉をもらったことに喜ぶより早く、次の課題に変な声が出てしまった。お手本がないということは、書き取りに使うすべての単語が覚えられているかどうかを試される。これもまた、苦手だった。お手本がない分、もっと字を間違える自信があるし。


「クロスステッチの魔女、あんた本番で呑気にお手本があるわけないってわかってるでしょうが」


「わかってますけど……!」


 四等級の試験はほとんど単語を答えるだけだったから、間違いはあったけどまだマシだった。あの時のことを思い出せば、この課題の必要性はわかる。


「ところで、これなんだけど」


 お師匠様が私に見せてきたのは、一枚の羊皮紙だった。真っ黒く染めた紙には、薄く何かの模様が――魔法が刻まれている。大きく書かれた飾り文字には『三等級魔女試験申込書』とあった。受ける魔女の名前に、しっかり『クロスステッチの四等級魔女キーラ』と書かれてしまっている。


「えっ、それ、もしかして」


「退路。さあお行き!」


 お師匠様が魔力を込めると、恐らくは《探し》の一種だったのだろう。紙は折り畳まれて鳥になり、私が呆然としている間に開いていた窓から飛んでいってしまった。


「あー!?」


「さ、受験勉強よー。まずはステューに読ませる文章の書き取りを、目の前でやってもらうからね」


 かくて、受験日が決まってしまった。

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