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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
22章 クロスステッチの魔女の再訓練
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第496話 クロスステッチの魔女、宿題を終える

「……うん、こんなものかな」


 満足のいくところまで物語が書けたのは、宿題を出されてから四日後の日が沈む頃合いだった。書いてすぐの部分は、インクがてらてらと光っている。乾くまで放っておいてから、自分で読み直すことにしよう。


「マスター、お疲れ様です」


「とびっきり熱いお茶が欲しいわ」


「ゆっくりお休みください、あるじさま」


 腕に疲れがあるのは、刺繍とはまた別の体の使い方をしていたからだろう。箒に乗り始めた頃、歩くだけでは使わない部分の肉を動かしたことで痛めたのに、感覚が似ていた。


「明日になったら、お師匠様にこの宿題を見てもらうことにして……今日はゆっくりすることにするわ」


 ううん、と伸びをして、今夜の夕食をどうするか考えることにした。パンは魔法で作ったのがあるけれど、確か他には、魚があったはずだ。少しくらいは、野菜もあるかもしれない。……何がどれくらいあるか、うまく思い出せないけれど。最近は、適当に出して適当に食べてたから。


「主様ー、お肉狩ろうよ、お肉!」


「もう日が落ちるから、明日か明後日にね」


 夜は魔法で夜目を利かせたとしても、狩りをするような獲物が皆、ねぐらにいる。夜に狩りができるのは、フクロウくらいだ。言われると私もお肉が食べたくなったから、狩りをするのはいい提案だった。この辺りの森は魔女達のものだから、草木も獣も魚も、程々に採る分には許されている。


「魚を適当に焼いてー……あ、調味料も足りなさそうね。うーん、この間買い足したと思ったのに」


「あの時はお肉お魚お野菜ばかりで、塩とかは買ってませんでしたよ」


「あら、そう? じゃあ宿題出した後に、この辺も買い足さないとね」


 買った気でいたのだけれど、そうではなかったらしい。私はとりあえずあるもので簡単に煮魚を作ると、四人分の皿に盛って皆に行き渡らせた。パン籠にパンをいくつか出せば、夕食の用意は完了だ。


「じゃあ、いただきまーす」


「いただきます」


 しっかりとした食事を取ったのは、久しぶりなような気がする。魔女は体を丈夫にしてもらわなかったら、飢えと渇きと睡眠不足で死んで数が減っていたんだろうとこういう時に思う。熱中してしまって時間を忘れることなんて、人間だった頃にはなかったのに。


(……まあ、そんなことをしていられるような育ちでも、なかったしね)


 いつもやらないといけないことばかりで、自分なりに集めたあの頃の『美しいもの』へ溺れてる暇なんてなかった。そう思うと、比べることなんてできないのかもしれない。

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