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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
22章 クロスステッチの魔女の再訓練
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第481話 クロスステッチの魔女、魔法を学び直す

 呪いが解けて、私の世界に色が戻ってきた。とはいえ、それだけで外に出るお許しは出ず。魔法の肌感覚を取り戻すまで、大人しくここで勉強していろと言いつけられてしまった。


「ここなら暴発しても、簡単に抑え込めるから」


 と言われて頷くしかなかったのだけれど、それが「対人戦闘に慣れた上級魔女が常に詰めているから」なのか、「この部屋にそういう魔法を封じる仕掛けがあるのか」は教えてもらえなかった。どちらでも、ありえそうな気がする。


「魔法が上手に使えないこと自体は、悲しいかな今更なんだけど……」


 なんて愚痴りながら、《パン作り》の魔法を刺す。気分を上げるべく、グレイシアお姉様の図案の中にあった、ふわふわの白パンができる刺繍だ。白パンはおいしい。


「糸の始末をして、魔力を込めて……」


 改めて、基本の基本に立ち返る。丁寧に刺繍をした自分の作品に、美しいと思うこと。それが『魔力を込める』という行為の本質。パンをふたつほど作りたいと思いながら、魔力を少し込めた。ぽこぽこ、と握り拳ほどの大きさの白パンがふたつ、刺繍の中心から生み出された。うん、ここまでは予定通り。問題はそこで止まらず、さらにパンができつつあることだ。とはいえ込められた魔力も沢山はない感覚があるので、少し置いておくことにする。


「おいしそうなパンができましたね」


 そうね、とルイスに頷きながら、四個で止まった白パンのひとつを割ってみる。真っ白でふかふかで、とてもおいしそうなパンだった。これからの毎日のパン、これでいいかもしれない。ちゃんと作れたわけだし。


「二個作るだけのはずだったのに、倍の四個できちゃった……みんな、食べる?」


「食べたいです」


「あるじさまのパンですもの」


「アワユキも食べるー!」


 きゃいきゃいと賑やかに手を上げる三人にひとつずつ渡して、私自身は今自分で割ったものを食べる。うん、おいしい。上等なパンはそれだけでおいしいのだ。バターもあるともちろんいいけど。


「マスター、これおいしいです」


「おいしいわね」


「好きー!」


 よかった、好評だった。褒めてもらえると、やっぱり嬉しくてやる気になる。私の魔法は私が好きでやっていることだけれど、もう私の一部で、私が綺麗だと思うものを他の人にも好きになって欲しいのだ。久しぶりにまともに見える世界は何もかも綺麗で、暗い部屋から明るい外に出たばかりのように何もかも眩しい。一週間かけて目を慣らすことで、魔法の暴発は無事に収まった。

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