表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
22章 クロスステッチの魔女と赤い呪い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

479/1038

第479話 クロスステッチの魔女、呪いを解いてもらう

「満月を映し続け、月の光を蓄えた銀の水盤。月の夜に掘り出した魔銀を鍛えた針に、満月の夜に採取した月木犀の葉、魔力の色を消し切った生成の魔綿糸。呪われた魔女と、呪いを溜め込んだイラクサ編みのレース。必要なものは揃いました」


 《裁きの魔女》様が私にそう言って、水盤に今夜の月が映るように位置を調整した。床に置かれた水盤の前に、促されて膝をつく。


「レースを外します、目を閉じて」


「はい」


 目を閉じると、暗闇がやってくる。開けていいと言われた時が、呪いの解ける時なのだろうか。どんな儀式をしているのか、正直見たかった。けれど、目を閉じるようにと言われたから閉じていないといけない。


「イラクサに花を咲かせましょう。呪いを吸い上げた、大輪の花を」


 視界が塞がれて鋭敏になった耳が、針仕事の音を捉えた。布に穴を開ける音がないから、おそらくはレースに対して刺繍をしているのだろう。しばらく、糸が擦れ合う音がする。


「水盤の水をかけますからね」


「はい、よろしくお願いします」


 水が瞼の上をするりと流れていく、冷たい感触がした。水の量が少ないのは、木の葉に載せた水だからだろうか。左右の瞼に一滴ずつ、水が垂れた。


「穢れた呪いに曇りし眼、清らかなる水で拭い去らん」


 低くまじないの言葉が呟かれるのを、私はじっと聞いていた。水が垂れて水盤に戻る、雫の音。何かが水の上に乗る音。


「さあ、目を開けてみて」


 ゆっくりと目を開けてみると、私の目を覗き込んだ《裁きの魔女》様が「瞳の色、青に戻っているわ」と声をかけてくれた。嬉しくなって水盤を覗き込むと、私の瞳が元の見慣れた青色に戻っているのが見える。水面には、今まで私の目を覆っていたレースもあった。茨の模様をしていたと記憶していたそれに、いくつもいくつも花が咲いていた。中心が赤くて、外側が白い花――そう思っていた側から、花に赤い色が増えていく。垂らした血が滲むように、花が赤くなっていく。

 《裁きの魔女》様は全ての花が真っ赤になるまで、見守っていた。私も言葉もなく、じっとそれを見ている。やがて花がすべて赤くなり、最初から赤い糸で刺繍をしたかのようになると、《裁きの魔女》様はその上に赤い糸を用意してくるりと囲んだ。そこに魔力が込められると、レースが炎を上げて燃え上がる。魔法が壊れて燃える時の金色ではなく、ゾッするほどの赤い炎。水の上にあるのに、短時間であっという間にレースは燃え尽きる。


「さあ、これで呪いは解けたわ。魔法を使ってご覧なさい」


 私の世界に、色が戻ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ