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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
22章 クロスステッチの魔女と赤い呪い
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第469話 リボン刺繍の魔女、かつての弟子の話をする

 『人の口には戸は立たぬ、女であればことのほか』。そんな故郷のことわざを思い出しながら、あたしは痛いところを突いてきた末っ子に思い出話をしていた。まさか、五年も保たないとは思わなかったのだ。


(……表立っての口止めを広くしていたわけじゃあなかったのが、失敗だったかな)


 そそっかしく問題を起こしまくる上に、なんだかんだと言って行動範囲が広い。今回だって、まさか秋中かけてニョルムルまで行くとは思わなかった。あたしの独り立ち直後はどうだったかしら、と思い返そうとしたけれど、昔すぎてもう忘れてしまっている。


「アンジェラは見習いを五年で卒業した。最後まで家のことは拙いままだったけれど、魔法の勉強を早くに修めていたからね。家のことは、それ用の《ドール》をあたしが買ってやった。あの子は希望がないと言ったから、そうしてやったんだ。それで、あの子はあの家を出て、一人でやっていくことになった」


 今のクロスステッチの魔女……キーラを住まわせているところよりは、少し遠い場所に家はあった。もう、今は何もない。


「五年って……私の見習い期間の四分の一じゃないですか!」


「あんたが鍋をひっくり返したり、魔法を暴発させたり、糸を絡めてダマにしてなかったら、二十年もかからなかったんだよ!」


 ちょっと、嘘だ。目を離すと事故を起こしそうで確かに怖い子だったけれど、それ以上にあたしはまた弟子を……娘を失うことを恐れた。秘蔵っ子だなんてとんでもない、あたしはただ風切り羽に生え変わったのを認めず、巣に留め続けた鳥なだけだ。


「……とにかく。四等級になったアンジェラは、あんたのように魔女としての活動を始めた。旅をしたり、依頼を受けたり、人間と関わったり。時々会ったり水晶で話したりして、あたしはあの子がうまくやってると思ってた。家事はダメでも、魔法ができていればいいと思ったんだよ」


 自然と、ため息が漏れる。アンジェラの時の反省でキーラにはこまめに連絡をしているつもりだけど、これで正しいのか。


「何が……あったんですか?」


「ある日、あたしの家にも《裁きの魔女》様方が踏み込んできた。あたしを捕縛して、家の中探し回って、そのまま本部まで連れてこられた。何が何だかわからなくて、事情を教えてくれと叫んだら……《裁きの魔女》様の一人が、話してくれたんだ。『お前の末弟子が、《裁縫鋏》に堕ちた』って。奴らの根城のひとつ、おぞましい魔法の生産所を潰した時に……あの子が、捕まったと。あたしには、南に旅に出ると言っていたのに」


 あの日を思い返すと、まだ指先が冷たくなる感覚も蘇るようだった。

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