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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
22章 クロスステッチの魔女と赤い呪い
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第467話 クロスステッチの魔女、お師匠様と再会する

「クロスステッチの魔女」


 その声がしたのは、少し視界が色を取り戻した日の夜のことだった。慌ててドアを開けると、お師匠様が冷たい手を私の両の頬に添えてくる。


「ちべたっ」


「ニョルムルの片付けに駆り出されて、遅くなったわ……呪われたって聞いて飛んできたけれど、あんた、案外元気そうじゃない!」


「視界が色褪せてて結構困ってるんですよ、これでも! 魔法が使えないから、砂糖菓子補充してあげられませんし!」


 お師匠様の顔も、そのカバンから顔を出したイースとステューの色も、ほんのりとしかわからない。たっぷりのミルクに、ベリー汁を少し入れた程度の色合いでしかなかった。それでも、前よりはマシな状態で会えてよかった。


「《裁きの魔女》様方に聞いたわよ、《裁縫鋏》相手に啖呵切ったって。無茶なことしたわね、馬鹿弟子!」


 いつものようなお叱りの言葉ではあったけれど、そこには安堵とかの温かいものが確かにあった。存在を確かめられるようにぺたぺたと触られるので、とりあえず中に通してもう一脚だけある椅子に座っていただくことにする。


「ルイス、お師匠様にお茶を淹れてあげられる?」


「はい、マスター」


 イースが持参していたらしい茶菓子を置いていると、ルイスがこの部屋に備え付けられているティーセットでお茶を淹れていた。前に《裁きの魔女》様に、飲んでいいとお墨付きはもらってある。


「はい、どうぞ。ひとまず、お飲みください」


 熱い紅茶で指先を温めながら飲み干したお師匠様は、ふう、と大きなため息をつかれる。


「ニョルムルは大丈夫ですか?」


「もちろん、人間達は何も気づかなかったわ。ソーニャの魔法の後始末は大変だったけどね。それから、あんたの泊まってた宿にも急用で出る話はしてある。また来てください、だってさ」


 そう言って、私が部屋に置いてた本をお師匠様が机に置いた。それを受け取って、自分のカバンに入れる。


「荷物を置きたいんなら、もう少し布とかにしておくんだよ。魔女の本なんて大半の人間の役には立たないとは言え、あんたも知っての通り本は貴重品なんだから」


 お師匠様は心底安心した顔で「本当に良かった……」ともう一度呟かれた。


「沢山もらったお守り、ほとんど壊れてしまいました」


「でも、生きてるじゃない」


「ソーニャと《裁きの魔女》様との戦いで、魔法の高みを見ました。いつか、強くて綺麗な魔法を使えるようになりたいです」


「精進なさいな」


 安堵した様子のお師匠様を見て、つい、今なら、と口から漏れてしまった。


「――それほど安心されるのは、前の《クロスステッチの魔女》のせいですか?」

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