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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
22章 クロスステッチの魔女と赤い呪い
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第466話 クロスステッチの魔女、呪いの正体を悟る

 自分の切った指先から、たらりと血が垂れる。軽く切った程度だから、数滴の血を流して終わるくらいの小さな傷だ。


「あっ」


 呪われて色褪せていた視界に、赤い血の色だけが鮮やかだった。本当の血って、こんなに毒々しいほど、宝石が煌めくように赤い色をしていたのかしら。久しぶりに色が見えた喜びに、嬉しくなる。きっと、ソーニャの視界はこんなものなのだろうとも、悟った。血肉の色だけが美しく見えてしまって、そこから魔法が生まれてしまうほどに魅入られたのだろう。

 かといって、私は《裁縫鋏》になんて、なりたくなかった。


「マスター、どうしたんですか?」


「痛いのー?」


 心配してくれる三人に「大丈夫よ」とだけ言って、私は《裁きの魔女》様を待ちながら簡単に傷の手当てをした。軽く布を当てておく程度だけれど、布に染みた血も鮮やかな赤色に見えたので慌てて目を逸らす。もしもそこから魔法が出てしまったら、本格的にまずいことになりそうとはわかっていたからだった。


「クロスステッチの四等級魔女、どうしたのかしら?」


「ひええ」


 そんなことをやりつつ、魔女様が来るとしたら夕食の頃合いだと思っていた。ところが、向こうからノックして来てすぐに来たことに驚いて変な声が出てしまう。


「……えぇと、その。呪いの正体、わかったかもです」


 聞かせて頂戴、と有無を言わさぬ口調で言われ、私は大人しく自分の目に見えるものを話す。


「視界が色褪せていて魔法が使えないだけでなく……さっき手を切ったんですけど、その血の色だけが綺麗なほどに、真っ赤で」


「価値観を狂わせる呪いかー、誘われてるわね」


 呪いの正体がわかってよかったわ、と言いながら、《裁きの魔女》様は私の目を覆っていたレースに触れた。ふむふむ、と呟いて、手を離される。


「確かにそうみたいね。これを解くための魔法を作り始めるから、こっちに付け替えてくれる?」


 新しいレースを目に巻かれる。こちらのレースを通してみると、前よりも色の褪せ方がマシになっていた。ほとんど白黒に近かった世界に、ほんのりと色がついている。


「呪いを抑える方に軸足を置いてあるから、少しは視界に色があるはずよ。どう?」


「はい、前より少し色が見えます……!」


 こっちは呪いを調べるのが本業だから、と言って、私の目に巻いていた前のレースを魔女様が回収する。そんな様子を横目に見ながら、自分の切った指先を、新しい視界で見てみることにした。

 あの際立った宝石のような赤さは、もうそこにはなかった。

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