表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
21章 クロスステッチの魔女と悪い魔女
453/1023

第453話 とある魔女、教え込む

 若い魔女のカバンから少し顔を出した《ドール》の、色違いの瞳には何やら見覚えがある気がした。何だったかしら、何か、見たような気がするのだ。半壊した姿でずっと従えさせている《ドール》の他にも、何体か持ってみたことはある。戯れに心を受け取り、体と心を壊しては、捨てたり売ったりしていた。すべてを粉砕してはいないから、パーツ取りくらいの値段はついた覚えがある。


「……ああ! 思い出したわ、その《ドール》、あの子のところにいた奴ね?」


「えっ」


 ああ、そうだ、同じような趣味の魔女が、面白いのを壊して遊んでると言って見せてくれた《ドール》の顔だった。捨てる時は《名前消し》をして自分の情報をすべて忘れさせてから放り出しているから、少年型の《ドール》にはピンと来た様子がない。小さな手が頭をカバンの中に下げさせ、くぐもった甲高い声が何か言ってるのは彼女にも聞こえてきた。若い魔女からあのカバンを奪うのは、面白そうだ。


「あの子ったら、面白いこと考えるのね。中古の《ドール》を買うような奇特な魔女のクセがついたところで、奪い返してもう一度壊すつもりかしら」


「なんてこと……っ! 切り裂け、緑の三番!」


 今度は若い魔女が風を起こす魔法を使う。ふむ、魔法をいくつも連発できるだけでもなく、お守りをもらってくる知恵とそれを使いこなす持久力。あたしの魔法を弾いたりすれば魔力を使い尽くして好きにできると思ったのに、案外丈夫だ。彼女の振るう四等級の魔法なんて、痛くも痒くもない。風の刃があたしを切りにきたけれど、服の一枚も切れずに消えていた。


(こんな生真面目そうな子なんだし、多分、上を呼んでるわよねぇ)


 師匠だとか、他の組合の魔女だとか。ある程度凌げば、きっと助けに来てくれると信じているのだろう。けれど残念、このあたりには《扉》を封じる魔法をかけてあるし、その魔法も隠してあるから、彼女が思ってるよりはすぐに来ないし――来ないかもしれないのだ。その前にあたしがこの子を籠絡してしまえば、終わる話だから。


「あたしの魔法、綺麗って言わせてみせるわ。ねぇ?」


「何度やったって、無駄なんだから!」


 上の魔女がこの結界を破るとしても、時間はかかる。簡単にはやらせないから。だから、それまでの間にあたしはこの子へ、あたしの思う『美しいもの』を、とっぷりと教え込むのだ。

 これを綺麗だと思って、あたしはこうなったのだから。これには、それだけの力があるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ