表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
20章 クロスステッチの魔女と薔薇騒動
427/1024

第427話 クロスステッチの魔女、やきもきする

 関係してそうな魔女に連絡を取れたと言われ、私はほっと息をついた。


「お茶を飲んで、髪を梳かした方がいいわ。風で荒れてしまってるもの」


 そう声をかけてくれた物売りの魔女に一礼して、彼女が並べている茶菓子のひとつを買ってから適当な椅子に座る。するとどこからかポットが飛んできて、お茶を淹れてくれた。柔らかい水が跳ねる音と共に内部に水が湧き出し、ポットの底に刻まれた魔法がお湯を沸かす。しばらくしてカップへ注がれた熱い紅茶を飲んで、やっと落ち着いた気がした。風に煽られてひどいことになっているだろう髪を、簡単に手櫛で直す。


「手近な魔女は何人か捕まったわ。それと、今、組合の精密な検索魔法に花びらをかけてるから、もうすぐ確定するわよ」


「ありがとうございます」


「よかったですね、マスター」


「これであの石鹸屋さんも大丈夫ですわね、あるじさま」


「お菓子食べよー、お菓子ー!」


 三者三様に私を慰めてくれるかわいい《ドール》達を撫でてやりながら、私はまずゆっくりお茶を飲む。これはお師匠様に習ったやり方だった。


『お師匠様、お師匠様はどうしてそんなにも、ゆっくりとお茶を飲んでいるんですか? 大変なことになっているのに!』


『いいかい、クロスステッチの魔女。お前は慌てすぎなんだよ。慌てて混乱した頭では、混乱した結論と行動しか出せない。だから、命に関わることでなければ、お茶でも飲んでまずはゆっくりするんだ。頭を落ち着かせて、それからしっかり考えればいい。――ただし』


『た、ただし?』


『あたしがちゃんと貼り付けた色紙の色に従ってしまえと言った魔法素材を倉庫であんたがぶちまけて、あの中が混沌としている結果は全部あんたのせいだからね。片付けたら説教だよ』


『ごめんなさいいいぃ』


 ……余計なことまで思い出してしまった。あの時のお師匠様、本当に怖かったなぁ。弟子入りしてすぐ、まだ針も糸も触ることが許されなくて、雑用係をやっていた頃の記憶だ。何年も……五年くらい、ひたすら雑用をしながら自分が出してしまってる素材のことを教わり、基礎の基礎をそうして叩き込まれてから初めて針を持たせてもらえたものだった。


「魔女組合まで《扉》を持ってる魔女が多分、最初に着くと思うのだけれど……身支度とかやりかけの仕事とかあると、すぐこっちに来られるわけじゃないだろうしなぁ……」


 そんなことを呟きながら、今度はお茶菓子を一口頬張る。甘じょっぱい味は、なるほど紅茶によくあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ