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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
20章 クロスステッチの魔女と薔薇騒動

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第422話 クロスステッチの魔女、調べ物を頑張る

「マスター、何を探しておられるんですか?」


「魔法!」


 翌日。私は図鑑で特定することをあきらめて、お師匠様に渡されていた魔法の本を開けていた。《保存》の魔法で状態が悪くならないようにとどめておいているから、花びらが枯れてしまって調べられないということにはならない。……まあ、あんまり呑気にしていては石鹸屋が大変なことになってしまうから、完全に気を抜くことはないように一応気を使っていた。


「物を探す魔法の発展で、調べ物の魔法があったと思うんだけど……お師匠様も偶然見つけたって言ってたから、載ってるかなあ。でも、あの人がお見つけになった魔法も載せてあったから、多分あるはず」


「あるじさま、これ、調べ物の魔法を探すのに調べ物の魔法が必要になってはおりませんか?」


「今ちょっと思ってたところよ、キャロル……」


 三等級魔女試験用の本なんかはどこかの酔狂な魔女が写本を繰り返して売ったり配ったりしているけれど、今私が読んでいる本は違う。

 本は大変に厚かった。本そのものは魔法でどうこうできないから――刺繍の魔女である私達には――自分で作るしかない。羊皮紙も安いものではないのに、お師匠様はいつからこの本を作っておられたのだろう。私たちは刺繍の一門なので、この本にはお師匠様の刺繍をされたリボンが縦にかけられていた。師匠から弟子に渡される本には、お師匠様が使ってきた魔法が書き留められている。


「私も作らなきゃいけないんだけどね、これ……」


「どうしてしないんですか? マスターは何かを書き留める時、いつも羊皮紙の切れ端を使いますよね」


「字がね、書くのが苦手なのよ。ずっとね……お師匠様や他の魔女達と違って、元々字を書く習慣がなかったから。改善しろって言われても、苦手な感じが抜けなくてね」


 そんなことを話しながら、私はページをめくり続けた。お師匠様の流れるような字は、どうやったらこんな風に綺麗に書けるのかと毎回思うほどだった。指先で読む時、口の中でもごもごと呟いてしまう癖は抜けそうにない。


「《失せ物探し》……《刺繍糸占い》……《調べ物》……これかな?」


 目当ての本と探したいものとを同じ布の上に置いて、その上に魔法の刺繍を施した布を被せる、とあった。幸い、糸を染めたり布を織ったりする手間もかからなさそうだった。持っている素材で事足りる。


「マスター、これでできそうですね!」


「ええ! 何の植物かわかれば、対処の方法を見つけられると思うの」


 私はそう言いながら、さっそく針に糸を通した。

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