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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
20章 クロスステッチの魔女と薔薇騒動
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第419話 クロスステッチの魔女、一息入れる

 調べものは、中々うまくいかなかった。赤い薔薇に似た植物というだけでは候補が多すぎるし、それらの中から絞り込もうにも特徴をそこまで確認できていない。蔓を伸ばす赤薔薇だけで十種類は出てきてしまい、私は花びらを眺めながら頭を悩ませることになってしまった。


「マスター、苦戦してますね」


「もう少し特徴がわかっていれば、特定もしやすいんだけれどね……あら?」


 ふと顔を上げると、紅茶のいい香りがしていた。うんうんと本をめくってあれでもない、これでもないとやっている私を見かねてか、ルイス達がお茶を淹れてくれていたらしい。この茶葉の匂いは、前に私が買っていた茶葉のものだろう。


「お疲れかと思い、僕達でこっそり用意してました」


「あるじさま、喜んでくださるといいのですけれど」


「びっくりした? した?」


「ええ、びっくりしたし嬉しいわ! 怪我はない? お湯は跳ねなかった?」


 大丈夫、と三者三様に頷くかわいい《ドール》達の様子を見ながら、ありがたく淹れてもらったお茶を飲む。温度も味も完璧で、本当にいい子でよかったとしみじみ思った。


「はあー、あったかいお茶を飲むとやっぱりほっとするわねぇ……」


「よかったです、マスター」


「おいしいお茶は、心が温まりますものね」


「みんなも飲むといいわ。少し休憩にしましょう」


 保存食として一応カバンに入れていたビスケットを取り出す。多分まだ食べて大丈夫だな、と匂いで判断してから、私は硬くなっているそれを紅茶に浸した。


「そろそろこれ、食べてしまわないとと思っていたの。硬いから、よく浸してふやかしてから食べるのよ」


「「「はーい」」」


 赤い花びらを眺めながら、ふやかしてもなお硬いビスケットを音を立ててかじる。もう少しふやかしたいから、さらにお茶に浸すことにした。


「それにしても、何かしらこの花。どこからどう来たのか……それに、どうしてあんなに繁ってしまったのか。わからないことが山積みだわ」


 私はそんなことを考えたりもしたけれど、お茶をしっかり楽しまないのも非礼かと思って紅茶とビスケットの方へ意識を向けることにした。ルイス達にビスケットを出した記憶はあまりないからか、どれくらい浸すと自分達にとっておいしくなるかを試しているようだった。


「何かこう……あのお部屋の環境が合いすぎて、元気になりすぎてしまったんですかね?」


「それはあるかも。でも、何をそんなに気に入ったのかしら」


 紅茶を飲みきっても、手がかりを見つけるのには苦戦しそうだった。

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