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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
18章 クロスステッチの魔女と小さくなった《ドール》

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第413話 クロスステッチの魔女、怪しい人が気になる

 怪しい外套の客は、しばらく宿に滞在するらしい。吹雪で窓がガタガタとうるさい中、鉢合わせたカリラがこっそりと教えてくれた。


「あたしは傭兵だからね、怪しい奴はどうにも気になっちまう。それで客同士で問題を起こす前に、マルヤが教えてくれたんだと思うがね」


 傭兵とは言っているが、用心棒としても腕を買われているのだと彼女は嬉しそうに笑った。


「ここは高級宿でもない、普通の宿よ? 賭場だってあるわけじゃないのに、用心棒がいるの?」


「案外とね。主に支払いをごねる客とか、マルヤへの要求がうるさすぎる客とか。屋根だけを貸す木賃宿からこれくらいの宿に移ってきたばかりの奴には、勝手がわからずに問題を起こすのがいるものさ」


 カリラは肩をすくめて、「素直に勝手が違うことを、学んでくれたらいいんだけれどね」と呆れたように言う。ルイスは私の肩で「そんなとのなんです?」と聞いてくるから、「人によるわね」と返しておいた。


「ハルバードを出すことはまあそうそうないんだけれど、この通りあたしは大きいだろう? それで睨みつけてやれば、大体のやつは大人しくなるんだ」


 彼女は怖がられたりすることを誉れだと思っているようで、語る声色には誇りだけがあった。灰色熊の氏族は森に住む戦士の一族だから、女であっても自らが戦士であるということには誇りがあるらしい。


「確かに、歴戦の戦士に睨まれてもごね倒せる人はそんなにいなさそうね」


「マルヤと親しくなったきっかけも、筋の通らない文句を言っていた客を大人しくしたからなんだ。ありがたがられて、以来毎年泊まってる。用心棒と客を半々にしてる感じだね」


 だからああ言う怪しい客は気になるんだよ、とカリラは言った。


「確かに、外套をあんなにぴっちり着込んではどんな人なのかわからないし、声を聞いたこともないわ」


「あたしもない。マルヤも、身振り手振りで宿泊したい旨を伝えられたと言っていたしね」


「あ、怪しすぎる……! というか、よくそんな人を追い出さずに泊まらせ……ああ、吹雪だったからかぁ」


「吹雪だから怪しすぎる客を追い出せずに泊めるとしたって、止んだら出て行ってもらう方が多いが……マルヤは昔気質で優しいからね。多分、そうする気はなさそうだし」


 あの人は何なのだろう、と二人で首を捻ってみても、何も思いつかなかった。背はそれほど高くなかったから、女か子供かもしれない。魔法の気配はしなかったから、あの外套に《裁きの魔女》達のような着ている人を隠す効果があるとも思えなかった。

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