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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
18章 クロスステッチの魔女と小さくなった《ドール》

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第380話 クロスステッチの魔女、みんなで空を飛ぶ練習をする

 刺繍を施した外套が完成したのは、次の日のことだった。秋晴れの青い空は、飛ぶのにぴったりだ。


「よーし、できた! キャロル、こっちにおいで」


「はい、あるじさま」


 私が呼び寄せると、キャロルはぱたぱたとこっちに走ってきてくれた。刺繍が終わって縫い上げたマントを被せてやると、少し思っていたより長くできてしまった。人間で言えば、くるぶし丈程度。引きずるほどではないのが幸いだった。


「わあ、ありがとうございます、あるじさま!」


「魔力を通して――綺麗だと思ってみて。そしたら浮けるわ。ルイス、手を繋いでいてあげて。飛びすぎないように」


「はい、マスター」


 キャロルが私の刺繍を見る。外套の全体に施した刺繍に魔力がゆっくりと沁み渡っていき、キャロルの小さな足が少しずつ浮きあがった。


「わ、わ、わ……! すごい、足が地面についていません……!」


 手を繋いでいたルイスも、ジャケットの力で少し浮き上がった。


「前にルイスが教わったように、今度はルイスが空の飛び方を教えてあげて」


「わかりました――キャロル、空を飛ぶ時のコツはね……」


 ルイスとキャロルが話しながら、二人はちょっとずつ高度を上げていく。アワユキも同じように浮き上がってついてきて、縦や横に少しずつ飛んでいく三人の様子を見守りながら、私はお茶を淹れていた。私の顔程度の高さでも、キャロルやルイスの本体まるごとひとつ分よりは高いところにいる。布をいくつか重ねて広げておいて、うっかり落ちてもいいようにしておいた。


「なんだか、お腹がすきました……」


「あら。二人とも、墜落する前に砂糖菓子を食べにおいで」


 ルイスは上手に降りてこれたけれど、キャロルはうまく高度を下げられずにいる。体が小さくて軽いのもあるのだろうか、と思いながら、私は頑張ってるキャロルが着陸しなくても食べられるよう、砂糖菓子を手のひらに載せて二人に差し出した。


「ありがとうございます、マスター」


「もうちょっと上手に降りられるように、頑張りますね」


「キャロルはもしかしたら体が小さいから、ルイスより魔力を沢山持てないのかもしれないわね」


 ルイスはタトゥーの分消費が激しいけれど、キャロルはそもそもの上限が少ないのかもしれない。そんなことを観察して思いながら、私は小さい革でキャロル用の小さな袋を縫っていた。首からかけて砂糖菓子を入れる、ルイスやアワユキにあげているのと同じもの。砂糖菓子がたくさん入らなさそうだったから、そこは魔法で少し広げた。といっても、私のカバンほどたっぷりとは広げられなかったけど。


「あるじさまー! お空を飛ぶの、楽しいです!」


 砂糖菓子を補給したキャロルは少しずつ、飛び方を覚えて笑っていた。

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