第376話 クロスステッチの魔女、北に行ってみる
冬をどこで過ごすか、結局その日は決まらなかった。けれど、決まらなかったなら決まらなかったで、適当に飛べばいいかと思い直す。あてもなく飛んで僻地に行ってしまったとしても、家に帰りたければ魔法が教えてくれるのだ。例え真冬の吹雪の中でも、見失いさえしなければなんとかなるだろう。そう、単純に信じた。そうだ、今の私は魔女なのだ。思いきったことをしても、いいんだ。
「本格的な旅になる前に、キャロルにもこの魔法を作ってあげなくっちゃ」
「魔法、ですか?」
小首を傾げるキャロルの前で、ルイスがふわりと飛んで見せた。魔法のジャケットの効果によるものだ。グレイシアお姉様はこっそり、ルイスのジャケットに施された刺繍のどこが空を飛ぶ魔法のモノなのかを教えてくれていた。最初から小さく作るには難しくて自信もないから、ルイスに作るような大きさから始める。ジャケットではなくマントとして、二人にお揃いのものを作ってあげることにした。その素材を採りに行くのも兼ねて、出発することにする。
「シチュー、すごくおいしかったわ。じゃあ、巡り合わせがあればまた」
そう言って次の日には、気持ちのよかった宿屋を出た。少し開けたところで箒に跨がり、ルイスをクッションにくくり、アワユキとキャロルをリボンで結びつける。
「そろそろクッションも手狭になったわねぇ」
「新しくするんですか?いいと思います!」
そう言ったルイスの言葉を覚えておくことにして、箒の先端を北に向けた。キャロルを乗せては初めて飛ぶから、ゆっくり高度を上げていく。
「あるじさま、どうしてゆっくり飛ぶんですか?」
「キャロルも増えたし、あなただけまだ落ちてしまったら普通に落ちてしまうんだもの。これから、空を飛ぶためのマントを作るんだから。それに、急ぐ旅でもないしね」
ここに来るまで、いつになく急いていた分の反動だろうか。ゆっくり行きたいという思いが強くて、速度を上げる気にはなれなかった。
「風の中にいれば、渡り鳥に会えると思うわ。彼らから羽を一枚もらって、それから山の方で生える草を採っていかないと。確か、私の《庭》にはまだ植えてなかったしね」
あれを広げるには色々と細かな手続きや儀式がいるらしいのだけれど、今度お師匠様に頼んでみてもいいかもしれない。
「キャロルにももしかしたら、採取の手伝いをしてもらうかもしれないわね。体が小さい分、下の方にある細かなものを見つけてくれそうだもの」
「がんばります!」