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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
16章 クロスステッチの魔女と《ドール》の秘密
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第346話 クロスステッチの魔女、長いお使いに出る

「ルイス、アワユキ、もう一人の体を作ってくれそうな魔女の心当たりをあたるために遠出することになったわ」


「わかりました。核はこちらの家に留守番ですか?」


「いいえ、魔女に見せるために持っていくって。どう持っていくかは、お師匠様が用意するって仰ってたから、私達は旅支度をしましょうか」


「おでかけおでかけー!」


 ふわふわと私の周囲を回って嬉しそうにしているアワユキを撫でてやりながら、私は二人にそう説明していた。一度自宅に戻った私達は、前の秋に長旅をした時の道具を出してきて旅支度をしている。せっかくだから、《魔女の夜市》で買った服も出してみることにした。これで出発するのも、悪くなさそうだ。


「ねーねー主様、お出かけはいつまでやるの? 冬もお出かけする?」


「冬は籠るものって思ってたんだけど、お師匠様にその辺言われちゃったのよねぇ……」


 苦笑が溢れる。旅の支度をするのに一度自分の家に帰ろうとした時、お師匠様にさらりと言われてしまったのだ。


『クロスステッチの魔女……キーラ。あんた、まだ、冬は籠ってやり過ごすものだと思っているかい?』


 《ドール》達がいないとしても、お師匠様が私を名前で呼ぶのはとても珍しいことだった。正直、忘れられてるかもと思ってたほどだ。


『今度の旅で、外で冬を過ごすことを覚えておいで』


 お師匠様にそんな課題を出されてしまったから、旧知だという魔女を見つけてもすぐには帰らず、どこかに逗留しつつ冬も旅をすることにしよう、と決めていた。その話をすると、雪の精霊であるアワユキは大はしゃぎで宙返りを始める。


「まだ冬じゃないからね、アワユキ」


「わかってるー!」


 そんなこんなで旅支度を鞄に詰め込む。替えの服、魔法の刺繍とそれらを刺すための道具、お茶の支度に保存食。それらを入れてお師匠様の家に戻ると、まずは分厚い手紙を渡された。


「うわぁ、これってもしかして封蝋ですか?」


「そうよ、見るのは初めてだった? 勝手に開けたらすぐ分かるからね」


 上等な手触りの封筒に、真っ赤な封蝋と金色の刻印があった。この図案は……《リボンを通した刺繍針》、だろうか。お師匠様らしい。ひっくり返した宛名には、私には読みづらい流暢な筆記体で『ガラス細工の魔女エヴァへ』と書かれてある。多分。それから、透明だけど丈夫な樹脂製の丸い瓶に入った核を渡された。


「核の方は、そろそろルイスと同じ薬液で大丈夫。魔力が弱まってきたら足してやるんだよ。エヴァはもしかしたら引っ越してる可能性もあるし、それなりに遠く、長くなる可能性も高いからね。今のあんたはクロスステッチの魔女なんだ。冬の外も美しいから楽しむつもりでおいで」


「はい――行ってきます!」


 私は笑顔でそう言って、箒で地面を蹴った。

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