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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
16章 クロスステッチの魔女と《ドール》の秘密

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第344話 中古《ドール》、もう一人の自分を見守る

「マスター、僕、また核を見てきますね」


「うん。危ないから触っちゃだめよ?」


 そう言われて、僕はマスターが用意してくれた《もう一人の僕》の核を見に行った。僕自身、こうやって核が作り上げられて《ドール》になったのだろうか。なんて、考えてしまう。マスターとそのお師匠様によって、僕の中にいたもう一人の僕は取りだされた。今まであまり感じたことはなかったからか、あまり実感はない。

 けれど、僕と同じ虹色の核が、薬液の中で少しずつ大きくなっている姿を見るのは興味深かった。本来、こういった株分けはあまりなくて、マスターも二十年お師匠様の元で修行していて初めて見た、と仰っていた。


「……もう一人の僕。僕に戻るのかと思っていたけれど、マスターがこんなことを考えて下さるだなんて」


 薬液の表面を撫でる。いつもの僕が沐浴している液体よりも強いから、触るとマスターでも危ないのだそうだ。普通の核を育てるときの液体よりも強くしてある液体の中で核の元を浸すことによって、時間をかけて育てていくのだとマスターは語っておられた。それは例えるなら、石が時間を立てて伸びていくようなものだと。


「優しいですよね、マスターは。僕達のような変な《ドール》を、あの人は真剣に大切にしてくださる。もう一人の僕、僕と一緒にマスターと暮らせるようになるといいですね」


 僕は時折、こうやって返事のない話をするようになっていた。透明な硝子の筒に映る僕の姿を見ながら、僕は一人語りをする。僕のマスターに、僕のせいで迷惑をかけてしまった。しばらく包帯を巻いていた指先は、僕のせいだ。優しい彼女は、自分の不注意のせいだと言っていたけれど。


「マスターは、あなたにあった服と体を用意してくれると思いますよ。それから、名前を僕に考えておくようにって。僕が名付け親になるのもどうかと思うから、候補にしてくれって言いましたけど……何がいいかな、名前」


 薄緑色の液体の中に揺蕩って、虹色に輝くもう一人の僕。ヒビだらけで破損した姿を固定してしまうほど、壊れてしまった僕。あの僕のことを忘れさせられて、生まれたのが僕だと思うと、このもう一人の僕は親のようなものかもしれないと思った。


「沢山、考えておきますね。あなたが新しい体を得て、僕と違う僕になって、僕と一緒にマスターといられることを願って。沢山、沢山考えておくから……マスターとお師匠様のこれだけの頑張りと愛を、無駄にしないで挙げてください」


 僕の言葉に、核がチカチカ光ったような気がした。

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