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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
3章 クロスステッチの魔女の裁判
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第32話 クロスステッチの魔女、これまでを語る

「リボン刺繡の二等級魔女アルミラの弟子、クロスステッチの四等級魔女キーラ。―――あなたは、サリルネイアの裁判に介入しましたか?」


「いいえ。私はリズ……本物のリーゼロッテ姫に、事態を告発する手立てを考えました。しかし、裁判には介入していません」


「しかし、血と涙を用いた魔法を使いましたね?」


 どうやら、魔法を解除するための魔法として死んだ彼女の血や涙を利用したこと―――そのために、彼女を死刑に追い込んだ疑いがかかっている、とやっと理解できた。それと、ルイスのあの魔力を放とうとした改造をしたんじゃないか、という疑いも。どちらも無実だ、というか私の四等級の魔力でそんなことはできるわけがない。


「はい。どのような魔法だったのかは、証拠の魔法と書付を提出します。カバンの中も、好きに検めていただいて構いません」


「該当魔法については証拠品の提出を認めます。審議の後、こちらから沙汰を下します」


 私の話した言葉は、リボンと宝石飾りのついた羽ペンが勝手に筆記しているようだった。《裁きの魔女》の一人がカバンに手を入れると、大量の羽が詰まった袋と血がついた《血の護り》のハンカチ、受け取った魔法を書いた紙、ルイス用に買い込んだ《ドール》用の小物や証書などが出てきた。お師匠様の《容積拡大》の魔法、本当にすごいなあ……。


「この袋の中身は……羽?」


「先日、エレンベルクの魔女組合で受けた仕事のものです。グース糸の二等級魔女ガブリエラ様の依頼で、鵞鳥の羽を集めておりました。サリルネイアに行ったのは、羽を探してのことです」


 ああ、と何人かの魔女から呟きが漏れる。ガブリエラ様の羽集めは有名なようで、「なら羽については後程の納品ですね」とすんなり納得された。


「この紙は……あの《ドール》の購入証書のようですね。青核(サファイア)半月級、工房不明、片目脱落済、タトゥーあり、《名前消し》済、魔法糸に緩みあり。購入時の値段は……金貨1枚と銀貨8枚!?」


 証書を読み上げた《裁きの魔女》の、声色を消した声に驚きが乗った。普通、ルイスくらいの大きさの小型ドールを買おうとすると、金貨5枚はする。金貨1枚あれば、サリルネイアの都にあるちょっといい宿でご飯付きの泊りができる。新品の《ドール》は基本的に高価なのだ―――だから私も一生懸命お金を貯めて、お師匠様からお祝いと言って少し出してもらったお金で《ドール》を買った。それが半額以下なら、相応の瑕疵があると思っていたし、それでもいいと思っていたのだけれど。


「お師匠様……修復師でもあるリボン刺繡の二等級魔女アルミラ様は、私の《ドール》が中古だと知って大変に怒りました。けれど、魔力の消耗が普通の《ドール》より大きいと思うから、気を付けるようにと言って許してくださいました。魔法糸は、お師匠様の指導の元、私が張り替えたものです」


「簡易検査の結果、この《ドール》は魔法糸を分解して余剰魔力を絞り出し、放とうとしていました。クロスステッチの魔女キーラ、あなたは自分の《ドール》に改造を施しましたか?」


「いいえ! 我が名、我が師にかけて、そのようなことはしておりません……少なくとも、意図的には起こしておりません。私がしたのは魔法糸の張り替えと、脱落していた片方の瞳を補っただけです。細工の魔女一門、歯車細工の四等級魔女の《名刺》としていただきました」


 首をぶんぶんと横に振る私の前に、意識を落とされているルイスが証拠品として提出された。《裁きの魔女》の一人が机に置いたルイスは、右腕がまだ壊れたまま目を閉じている。


「また、少し深く検査をしたところ、この《ドール》のタトゥーには何らかの封印措置があります。それと、何らかの偽装もありました」


「暴け」


 裁判長らしい魔女が端的に一言で命じると、ルイスを提出した魔女が彼の核を出させた。青核(サファイア)の青い光が、裁判場に漏れる。封印だの偽装だの、何を言っているのか私にはわからない。ルイスが最初に聞いていた話と違う子らしい、ということだけしかわからなかった。


「《裁きの魔女》の名の元に命じる―――偽りを剥がせ」


 核の青い光が少しずつ剥がれて、別の色の光が漏れる。核の偽装だなんて、ルイスの製作者は何を考えているのだろうか。核によって人気の上下はあるというけれど、偽装して得なことなんてないと思うのに。バレたら《裁きの魔女》に何らかの罰則を加えられるだろうに、なぜ……?


「な……!」


「まさか……!」


 漏れたのは、虹色の光。光の塊は二回りも大きくなり、七色の光が裁判場を照らすと《裁きの魔女》達は皆、絶句した。


「クロスステッチの四等級魔女キーラ! 虹核(オパール)の《ドール》をどこで手に入れた!」


 怒声に対して、私は答える言葉を持たない―――私はルイスのことを、きっと何も知らなかった。

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