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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
14章 クロスステッチの魔女と年越し夜会
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第299話 特級魔女、後片付けをする

「ターリア様、みんな帰りました」


「ターリア様、これ脱いでもいいです?」


「構いませんよ、二人とも。楽になさいな」


 わらわが夜会に出席した二人の弟子にそう許しを出すと、二人ともすぐに脱いで普段着で戻ってきた。ガブリエラは元々こういう服が苦手だと零す子だったけれど、慣れているミルドレッドも早い。汚したり傷つけたりしたくないらしい。


「それと、イザベラ。門番や間諜の真似事などしないでよろしい、と去年も言ったこと、お忘れかえ」


「いいえ? 今回も問題なく過ごせたとはいえ、誰かしらはこういう役目が必要かと思いますわ、おかあさま」


 魔法で印象に残りにくく変身していたもう一人の弟子は、そう言って魔法を解いて本来の姿を現した。大魔女ターリアの弟子、人間界においては魔女王国の姫とされる女が、まさか使用人の真似事をしていたなど誰も思わないだろう。イザベラにはどうにも、こういうところがあった。姉弟子二人の影に自分から隠れるような役目など、こちらから申し付けたことは一度もないというのに。


「みーちゃん、今度の服にはいくらすっ飛ばしたの? 何日、魔法のパンとお砂糖だけの生活になるくらい?」


「最初からすっ飛ばす認識……いえ、否定できないけど……」


 そんな風に話していた弟子二人が戻ってきて、イザベラに気づくと「「今度は何に変身してたの!?」」とほぼ同時に問い詰めを始めた。


「今年も何かに変身して夜会に来てるとは思ってたけど、また見つけられなかったー! 悔しい!」


「そろそろあなたもターリア様の弟子として、夜会に正式に出たらいいのに。確かにイザベラは私達の中で弟子入りも元の年齢も一番下だけど、そろそろ誤差よ?」


「三人目の弟子について、変な噂が一人歩きをする前に顔出しさせようかえ」


「「賛成ー!」」


「いーやー! ねえさま方を着飾らせて見てたいのにー!」


 夜会の間は大魔女として保つべき威厳があるけれど、終わってしまえば賑やかなものだ。裏で片付けにあたっていた《ドール》達も戻ってくれば、真夜中に熱いお茶で一息入れる時間がやってくる。


「そういえば、あの若い魔女。アルミラが二十年も見習いで手元に置いていた秘蔵っ子と言う割に、あの子自身は普通でしたね」


「ああ、あの子! 鳥の羽をたくさん持って来てくれた時は助かりました。《ドール》もいい子ですよね」


「アルミラは自分の弟子から《一条破り》を出したからか、今度は慎重に育てているようですね」


 ガブリエラはすぐに羽を枯渇させて頻繁に依頼を出す子だし、ミルドレッドは珍しい宝石があれば魔女から買い取るから、この二人の顔と名前は今までの弟子の中で一番よく広まっているのだ。そこに完全に一般魔女の顔をしているイザベラも足すと、それなりに魔女個人の人となりが聞こえてくる。そういった話を聞きながら、頭に残っているのは彼女が連れていた少年の《ドール》の顔だった。顔が、声が、魂が、ルイスという名前が、記憶の奥底にある影をつつく。けれど、あの《ドール》が影と重なるかを確かめるには……あまりにも、時間が経ち過ぎていた。

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