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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
14章 クロスステッチの魔女と年越し夜会
298/1023

第298話 クロスステッチの魔女、宴の終わり

 家のある森へと飛んでいく途中、夜中に浮かれ騒ぐ人々の声が風に乗ってかすかに聞こえていた。調子っ外れの歌を歌う声や、笑い声、拍子を取る手拍子。


「今日は人間達も、楽しそうですね。去年はメルチのことでバタバタしていたし、暦を見る余裕もそんなになかったから、あの子には悪いことしちゃったな。魔女は新年を祝わないと思われたかも」


「ただでさえ最初の一人での冬越しに、弟子未満まで抱えてたんだ。よくやったと思うよ」


 私の呟きにお師匠様はそう言って、ステップを踏むように軽く足を揺らした。聞こえてくる音楽に合わせるかのようで、私もついつい真似してしまう。


「ルイスとアワユキは、どうだった? お祭り、楽しかった?」


「楽しかったー!」


「楽しかったです! あの会場のお城も、綺麗でしたね」


「あそこは本当に、昔はどこかの国のお城だったと言われているわ。それをターリア様が貰い受けて、魔女達の城にしたんだって」


 お師匠様から聞いた話だった気がするし、村にいた頃に聞いた話だった気もする、とにかく遠い遠い昔のお話だ。魔女が魔女のものにした、花が咲きこぼれる小さくて美しいお城。誰も住んでいないお城だったから、そのお城は魔女のものになったと。


「随分と古い話だから、異説もいくつかあってね。あたしも魔女になる前から、何種類かの物語を纏っていた城だよ、あそこは。どうして飛んでいるかも、一般の魔女にはよくわかってないからねぇ」


 お師匠様はそう言いながら、足で拍子を取って歌物語を歌い出した。昔、弟子入りしてすぐの頃に聞いた歌だ。


『月の彼方に空を行く城、国なき魔女が集う場所。民に王あり、獣に主あり、我ら魔女には冬薔薇城あり』


 私もその声に続けて歌っていると、歌が終わる頃に先に私の家に着いた。早速入ろうとしたところを、呼び止められる。


「お待ち。自分じゃ脱げないだろうから、脱がせてやる」


「そういえば着付けられたんでした……」


 まったく、とどこか楽しそうに言うお師匠様にコルセットを外され、三角帽子を脱ぐだけで少し楽になる。そこから私には取り扱いの少し怖い綺麗な礼服一式を脱がせてもらうと、お師匠様の指の一振りで服達は衣装箪笥の自分の位置へと帰って行った。最後に顔を水と綿で拭われ、化粧を落とされる。


「……はい、これでよし。そのまま寝る気だったろう、あんた」


「その、流石に疲れて、眠気が……」


「ルイス、このヘボ弟子が化粧落とさず寝ようとしたら止めるんだよ」


「わかりました」


 家に着いたら一気に眠気の来た私に、少し呆れた顔でお師匠様は「春まで大人しくしてるんだよ」と言って、帰って行った。

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