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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
14章 クロスステッチの魔女と年越し夜会

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第296話 クロスステッチの魔女、贈り物をもらう

 新しい年になった挨拶を交わすと、ターリア様が手を上へ上げた。すると天井へ向かって、いくつもの光の花が上がる。火と光でできた花が天井で大きく花開き、その光の花弁が降ってきた。他の人の真似をして手を伸ばし花弁を取ってみると、手の中でそれはキラキラとした光を紡いだようなひとかせの刺繍糸になる。何を紡いだ糸かはお師匠様に聞いてみないとわからないけれど、綺麗な金色をしていて、少し糸自体が光っていた。


「わあ……!」


「ターリア様からの、新年の贈り物よ!」


「大事にしないとね」


 周囲の魔女達には刺繍糸だけでなく、小さな宝石、布、他にもいろいろなものが贈られたようだった。私は刺繍の魔女だから、刺繍糸をいただけたのは本当に嬉しい。


「ターリア様、ありがとうございます!」


「ありがとうございますターリア様!」


口々にお礼を言っていると、ルイスにもこつんと光の花びらが降ってきた。光を受け止めているのは大きさの関係で主に魔女達だったのだけれど、時折、幸運な《ドール》は何か素敵なものを手に入れているようだった。光の花びらをルイスが丸くくぼませた両手で咄嗟に掴むと、私に向けてその手を見せてくる。


「マスター! 僕、何か取れたみたいです! マスターにあげます!」


「あら、ルイスが取れたならルイスのものよ」


「何が取れたのー?」


 私とアワユキで手を開いて見てみるように促すと、ルイスがそっと手を開いた。その中には、銀色の刺繍糸がひとかせあった。私がいただいた金色の糸と違って、もう少し細くて、光り方も大人しい。きっと、月の光の糸だろう。とても細くて、私の糸ともども魔力がかなり籠められていて、とっておきにするべき糸だった。持ち帰った後は、保管方法を考えないといけない。これだけの魔力の糸……おそらく、ターリア様かお弟子の三人かが紡がれた糸だろうか。私が紡いだ糸とは一緒にできないし、これだけの魔力が漏れたりしないように取り扱いを慎重にしないといけなかった。


「わあ、綺麗な糸……!」


「素敵な贈り物よね」


「相変わらず、ターリア様の贈り物は素敵だわ」


「今度、これを使って素敵な魔法を作らないと」


 きゃいきゃいと話す高い声を聞きながら、私もいただいた糸で何を作ろうか考えていた。これだけ強い魔力のある糸だから、何か大きな魔法が作れるはずだ。


「クロスステッチの魔女」


「あ、お師匠様! 見てください、綺麗な糸をいただきました」


 私がお師匠様に糸を見せると、お師匠様には「あんたこの糸使う前には絶対あたしを呼ぶんだよ」と念押しされた。

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