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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
14章 クロスステッチの魔女と年越し夜会
284/1024

第284話 クロスステッチの魔女、年越しの夜会へ足を踏み入れる

 仕立ててもらった衣装が届いたのは、夜会へ参加する年越しの夜の前の日だった。クロエ様は遅くなったと恐縮していて、お詫びだと言って小さな黒い布でできた花をくれた。


「新しい靴を慣らす時間がないから、これを使ってくださいね。足を痛めにくくする魔法を、花の形にまとめてあるので」


 ありがたく両足の、リボンの結び目のところに魔法の糸で縫わせてもらった。黒い花をつけた状態で一度袖を通し、鏡に全身を映す。幸い、コルセットは魔法で締まってくれるし、他も全て自分で着られる服だったから簡単だった。この世には絶対自分で脱ぎ着のできない服があるという話を聞いた記憶があるけれど、いくら豪華でもそんなのはごめんだった。クロエ様は、いい仕事をしてくださったと思う。


「マスター、年越しの夜会ってどんなことをするんでしょうか。僕、楽しみです」


「アワユキもー!」


 《ドール》達に服装の決まりはなく、皆好きなように魔女が着飾らせて連れてくるのだという。連れてきていいのは、最大三体まで。ルイスとアワユキは当然、連れて行くつもりだった。

 当日。私は家の掃除と軽い食事を済ませてから、改めて礼服を着た。


「二人には、これをあげるわ」


 そう言って、私の服と同じ夜花染めの魔絹のリボンをそれぞれの首に結んでやる。綺麗な蝶結びになったら、魔法でそれを固定した。それから手袋をして、午後のお茶の頃にお師匠様がご自分の《ドール》達と私の家に来た。


「お久しぶりですね、クロスステッチの魔女」


「……変わりないか」


「イース、ステューもお久しぶり。その箱はどうしたの?」


「せっかくいい服着てるんだから、少しくらいは化粧をさせないとと思ってね」


 そう言って、私が何か答える前にお師匠様は白粉花のおしろいを私の顔にはたいてきた。普段より肌が少し薄くなったところで、紅の実の汁で唇を赤くされる。


「なんか、変な感じです……」


「少しは身綺麗になさい、魔女なんだから」


 そう言われても、慣れてないものは慣れていない。お師匠様に服に散った粉をはたかれたところで、「さ、もう行くわよ」と言われた。


「いつもの《名刺》は?」


「大丈夫です、待ってます」


 そんな話をしながら、ルイス達と一緒に箒に乗る。いつものカバンはお師匠様の魔法で、今日だけ黒かった。箒の房も綺麗に切り揃えて、白い花を数本差し込みオシャレにしている。


「それじゃ、ちゃんと着いてきて」


「はーい!」


 お師匠様の箒の後を追いかけて、早くなった夕方の空を飛ぶ。午後のお茶からまだあまり経っていないと思っていたのに、もう空には気が早い銀色の月が浮いていた。その月の輪の中に向かって、お師匠様は箒を向けた。私もその通りにすると、しばらくして……何かのヴェールを潜り抜けた気がして、景色が変わった。

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