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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
14章 クロスステッチの魔女と年越し夜会
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第276話 クロスステッチの魔女、布に悩む

 お師匠様に引っ張られて連れて行かれた先は、仕立て屋……ではなく、お師匠様の家だった。それも、お師匠様の衣装箪笥の目の前。よく磨かれた黒檀の木の肌は滑らかで、優美な曲線を描いて衣装を守っている。扉の前には古めかしい姿見がかけられていて、少しくすんだ鏡面に私とお師匠様が映っている。私の衣装箪笥とたいして大きさは変わらないように見えるが、魔法がかかっているのはわかった。見た目より沢山入る、私の鞄と同じ魔法だ。弟子としてお師匠様の部屋の掃除は二十年させられてきたけど、これの中身を見たことはあまりない。


「礼服仕立ての魔女の元にいきなり行くのは、無礼だからね。さっき訪いの約束をしておいたから、あちらに行くのは午後だよ。それまで、先にいくつか決めておかないと」


「そうなんです?」


 布地ひとつ取っても色々あるんだよ、とお師匠様は言って、指の一振りで衣装箪笥を開いた。中から黒い礼服がいくつも現れて、お師匠様と私の周囲をふわふわと取り囲む。


「年越しの夜会には、厳格な服装の決まりがいくつもある。四等級が身につけていいものも決まっていて……ほら、お前とお前はお戻り、その生地はこの子にはまだ早いよ」


 何着かのドレスが、名残惜しそうに裾を翻しながら戻っていった。お師匠様の普段着はあまり凝った装飾のないものが多いのだけれど、ここで並んでいるのはどれも綺麗なレースや膨らみがあったり、布が二重になっていたりと贅沢なものが多かった。さすがは、魔女になる前は姫君だったと噂のあるお師匠様の服だ。


「四等級が身につけていいのはこの辺りの、黒魔絹、黒狐の革、夜花染めの魔絹布だね。この三着はそれでできているから、軽く触って肌触りを確かめるんだ。どの布で作りたいかだけでも決めておけば、仕立ての魔女の元に行った時に話が進む」


「なるほど……着てみることは?」


「あんたが着たら破けるよ、あたしに合わせて作られてるんだから」


 私もお師匠様も細身だけど、腰回りや胸元の大きさは当然違う。魔女個人に合わせて作られているから、他の人が着られないのは当然だった。人間だった頃に着ていたような何人かで着回しお下がりを続けた服と違って、個人に合わせた服なのだ。確かにそうか、と思って、私は一着ずつそっと触れた。

 魔絹は扱ったことがあるけれど、服に使われているすべての布がそういったもの、というのは私の手元にはない。だから面白くなって、つい、ぺたぺたと触れてしまった。夜花で染めた魔絹と黒魔絹では、さらに感触が違う。


「どれがいい?」


「う――ん……それなら、夜花染めの魔絹でお願いします」


 答えが出るまで、お師匠様は困ったように笑いながら待っててくれた。

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