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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
13章 クロスステッチの魔女と古い魔女の遺跡
272/1023

第272話 クロスステッチの魔女、風の精霊に吹っ飛ばされる

 勢いよく吹き荒れる風は、単なる自然の力だ。そこに害意はない。だからだろうか、吹っ飛んだのと同時に《身の護り》の魔法が発動した。何かあったら勝手に魔力を吸い上げて一人でに魔法が私を護る、と聞いていた通り、勢いよく風に吹き飛ばされて壁にぶつかっても、痛みはなかった。壁にぶつかる分を相殺してくれただけで、風がぶつけられた時の衝撃そのものは浴びてしまったけれど。昔、世話をしていた位置が悪くて馬に尻尾で引っ叩かれた時の感覚に似ていた。


「マスター!?」


「大丈夫、痛くないから平気……約束の仕方を間違えたかな」


「下級精霊にしては力が強いのなのー」


 ルイスも風に吹っ飛ばされたが、私の方に飛んできてくれたので受け止めた。アワユキは同じ精霊だからか、室内を荒れ狂う大風の中でも平然としている。淀んだ空気を開けた窓から追い出して欲しい、とはお願いしていたが、引き当てた精霊の力が強かったために最大の力で暴れられたらしい。しばらく吹き荒れていた風が木の器を窓から放り出すのは「後でお掃除が大変だぁ」と見ていられたが、魔法の素材を集めた瓶まで吹き飛ばしかけたのを見て慌てた。瓶が割れてしまったら、掃除も片付けももっと難しくなるし、何より中身が漏れてしまう。……資材置き場が心配になってきて、慌てて精霊に声をかけた。精霊が好む光蝶の鱗粉を撒き散らしながら、声を張り上げる。


「かっ、風の声、草を駆ける者、シルフィー! 物を壊さないと、約束しておくれ!」


 鱗粉があっという間に風の中に巻き上げられ、願いを聞いてもらえたからか風の荒れ狂う勢いがかなり収まった。それでもしばらくは風が吹いていたけれど、やがてそれも収まる。魔法円の中心には、どこか誇らしげな様子の風の精霊が見えた。どうやら、仕事を終えたらしい。チリチリチリ、と鈴を鳴らす音がして、なんとなく意味が伝わってくる。


「壊さないように頑張った、から……んん、砂糖菓子をもうひとつ欲しい? かな?」


「そうだねー」


 アワユキが頷いたので、なるほど、と言いながら私は砂糖菓子をもうひとつあげた。


「私は、クロスステッチの四等級魔女。お仕事はここまでだから、もう帰っていいわ。機会があったら、また呼んだ時に来てくれると嬉しい」


 精霊は強く大きい音を出して、興味と好意の感情を伝えてきたかと思うと消えてしまった。魔法の刺繍は魔法が使い切られた証に、金色の炎を吹き上げて燃えた。血と鱗粉と砂糖菓子は、精霊の取り分なので当然残っていない。


「さてー……掃除しようか」


 後に残ったのは、精霊が吹き飛ばした物達の惨状だった。

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