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クロスステッチの魔女と中古ドールのお話  作者: 雨海月子
2章 クロスステッチの魔女と鵞鳥番の娘

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第26話 クロスステッチの魔女、悪だくみの結果を聞く

 私が宿屋で目を覚ますと、明るい陽射しがカーテンの荒い織り目から漏れていた。刺繍のしがいがある布に、自分なら何を刺繍するか考えながら朝の光を少し見ていると、ベッドの傍らがもぞりと動いた。仔犬のように丸くなって眠っていたルイスが目を覚まし、少しぼうっとした顔で辺りをきょろきょろとしている。


「おはよう、ルイス」


「おはようございます、マスター……僕は、眠っていたんですか?」


「ええ、私より先に丸くなってぐっすりと。疲れていたのね」


 ルイスには怒涛の1日だっただろう。名前をつけられ、体を直され、私に連れ回されて。夕食の後に通された部屋で本人はしばらく眠りたくないとごねていたのだが、休息を欲したルイスの体は、部屋着として買っていた服に着替えると勝手に眠ってしまっていた。《調律》の魔法で魔力を整えられ、状態もよさそうだ。カバンに入れていたルイス用のお皿に、砂糖菓子をいくつか魔法で出しておく。


「先に砂糖菓子をつまんでおいてね」


 泊まるつまりなんてなかったから、眠っていた私が着ていたのは黒いワンピースのままだ。そろそろしっかり洗濯したいところだけど、今は常に持ち歩いている幅広のリボン2本をワンピースの腰に巻き、魔力を通す。水色のリボンの《浄化》で汚れを消した後、生成色のリボンの《保全》で服の皺も消した。この服を着て寝ていたと思えないような状態に戻ったワンピースを見て、うんうんと頷く。人間には高価だからか、この部屋には鏡はなかった。


「マスター、今日はどうするんですか?」


「まずは昨日のキュルトに頼んだことがどうなったか、その結果を聞くところからかな。でもその前に、朝ごはん食べていかないと。美味しいんですって」


 魔女は『美しいもの』に弱い。それは魔女という生き方を選んだ時点で、己が美しいと思うものを追いかけ続ける存在になったからだ。美しいものを針先に縫い留め、美しいと思う心が魔法の源泉になる。魔女の契約をした時から、私たちは美しいものに膝を折る生き物だ。

 そして、美味しいものも美しいもの。魔女が使うような奇跡に繋がらなくても、美味しいものを作れる人は魔法使いと同じだ。


「ここのジャムは絶品という話だから、とっても楽しみなの。ルイスも食べようね」


「はい!」


 私達は噂に違わぬ絶品の林檎ジャムで朝食のパンをぺろりと平らげると、もう一泊したいから部屋はそのままにして欲しいと頼んで外に出た。箒に乗る前に、魔法で探すのはキュルトの方だ。

 リボンの蝶が導く方へ飛ぶと、鵞鳥に囲まれてキュルトは1人だった。リズの姿はない。


「おはよう、キュルト」


「まじょさま! おにんぎょうさんも、おはよう!」


「今日は1人? リズはどうしたの?」


 するとキュルトは、待ってましたとばかりににこにこと笑って話し出した。

 キュルトとリズが鵞鳥を追って城に行くと、明らかにえらい人だろう高価そうな服を着た人がいた。その男は異国から来たリズについてどんな子か聞いてきたので、キュルトは私が入れ知恵した通り大袈裟に騒ぐ。『門にかけられている馬の首と喋る』『話し方が自分達と違って変』『不思議な力で帽子を飛ばしてくる』『一緒に仕事をしたくない』と。リズは何か物言いたげだけど如何にも言えません、という顔をして俯いていたら、彼は言ったそうだ。


『人に言えない誓いを立てているというなら、城にある鉄のストーブに話してみなさい』と。


 リズはその日の夜、早速その通りにして、今朝早くから城の人に呼ばれているのだと。


「リズ、もうなるのかなぁ」


「その様子なら、収まるところに収まる準備をしていると思うわ」


 私はそう言って、内心で後輩を失うだろうキュルトに少し謝った。

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